俯いて……自分の身体を抱きしめ、震えていた。
 ぼくと同じくらいかそれ以上に……とてつもなく怒っているのが手に取るようにわかった。

 マリアはひょっとして、以前のラダトームでのことと今回のことを重ねているのかも知れない。
 あの時自分を助けてくれたリークが今度は逆の立場に立たされている。
 あの時の屈辱以上のものを、自分の大事な人が味わわされていると知ればその怒りはもっともだろう。
 マリアの瞳が歪み、「殺してやりたい」と言っているように見えた。

 そしてそれは、ぼくも同じだ。
 ぼくが死の呪法を覚えていたら今すぐ唱えてやりたい気持ちだ……。
 ……マリアも、我慢しているようだった。
 すべてはリークを救う計画の為。

 震える声を押して、マリアが口を開いた。
「レイカーリスが貴方の妾になったどうのは、もはやわたくし達には関係のないことです……王、紋章を頂きたく存じます」
 そういいながら恭しく頭を下げる。
 フレッドは逸らしていた視線を戻すと机に歩み寄り、引き出しから平たい箱に収められた、虹色に輝くメダルのようなものを取り出した。

「お納めください。気高く美しき王女よ」
「ええ、ありがたく」

 紋章は、手に入れるそれで形や大きさが違う。
 物によっては形がない場合もあるらしい。
 それを手にするとルビス様の心に少しだけ触れることが出来て、ぼくらの心に刻まれる。
 これまでぼくらが手に入れたのは……大灯台にあった星の紋章、そしてこの月の紋章は二つ目だ。

 形が無い場合もあるわけだから、「物質」として手に入れる必要はなくて。
 ぼくとマリアは順にそのメダルに触れた。
 心に何か暖かいものが満ち、そしてこの紋章の姿……月の形が刻まれるのを感じた。

「ガイアの鎧は? 必要かね?」
「……ぼくが身に着けたいと思っております、出来れば授けていただけると」
「……結構重いから華奢な身体の君に合うか、わからないが」

 馬鹿にした口調でいうと、王はそばにいた近衛兵に命じて鎧を運ばせた。
 わかってる……たぶん、ぼくには着けられない。
 重くて動けなくなるのが目に見えている。
 これはリークが身に着けてこそ、のものなのだ。
 救い出したその時に彼に渡すための準備。

「これは君達のホテルに運ばせよう。……他には意見や質問などはないね? なければこれにてお開きにしたいんだが」
「はい」

 ぼくらは頷くと、謁見室を後にした。
 王宮を出てホテルへ向かう。
 その道中、マリアがぽつりと、言った。

「ハーゴン以上に殺したいと思った相手は、初めて……」
「……」
 まったく同意だった。

 ぼくの国はハーゴンからの襲撃を直接受けていないから、ぼくの言葉は正直マリアほどに重みは無い。
 そのマリアから出た言葉なのだ。
 どれほどまでにあの王を憎んでいるかが良く伝わってきた。

「……決行は明日?」
 ぼくの問いにマリアは力強く頷く。
「恐らく最短は明日になると思うの。……もし明日でなければ、出てくるまで辛抱強く待つつもり。カインは……大丈夫?」
「大丈夫も何も、リークを取りもどなきゃはじまらないじゃない。ぼく一人でハーゴン討伐なんて無理だしそれに、……それ以上に、早く、……取り戻したい」

 マリアは再び頷くとぼくの手を取って、両手で包み込むように優しく握った。
「大丈夫。きっとうまくいくわ」
 マリアの力強い言葉にぼくは安堵して微笑み返した。
 と。

「協力してやろうか」

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□モドル□


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