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「ぼく変なのかも知れないな。何か、人として大切なものが欠けてるっていうか」
 交代の時間になってリークのもとにやってきたぼくは隣に座りながらそう言ってみた。
 リークがはて、と首を傾げる。
「何の話だ」
「リークは女の子とか好き?」

 唐突に問われて彼は目を丸くする。
 少しおかしくなって笑ってからぼくは改めて問い直した。
「君に嫌われてるかもって思って思い悩む女の子がいたとしたらどうする? 泣くほど悩んでるとしたら」
「……だから、何の話だ」
 呆れ顔がリークが問い返してくるがぼくは遮って「先に質問に答えて」と言った。
「……そうだな。嫌われているかも知れないと思っているだけで、僕が実際にその相手のことを嫌っているわけではないなら誤解を解こうと思う」
「じゃあ解いた後『実は貴方のことが好きなの、かっこ恋愛的な意味でかっことじ』とか言われたらどうする?」
「……」

 ぼくの次から次への唐突な言葉にリークは疲れたのか、じと、とぼくを睨み付けてきた。
「……答えたんだから意図を明確にするように」
「ぼくさ、恋愛とか興味ないんだ。でももしリークみたいな立場になって、その相手がすっごく綺麗で可愛い女の子で、その子に告白されたらどんな気持ちになるんだろうって思って」
「誰かに告白でも受けたのか?」
 リークは当然とも言える疑問をぶつけてきたけど、ぼくが首を横に振るのを見て、何がいいたいのかわからない、と尋ねてきた。

「そんなことを考えるきっかけがあったんだろう?」
「うん。ぶっちゃけていうけどマリアはたぶん君のこと好きだよ」
 ぼくの言葉にリークが固まった。
 何を言えばいいのかわからないといわんばかりの顔でうろたえる彼の鼻先をちょい、とつつくとぼくはからかうように笑う。
「ひっかかったな、恋愛の意味じゃないよ。……仲間に邪険にされてるのが辛いみたいだ。君があんまりにも無愛想すぎるから気にしてた」
「あ、……ああ……」

 そこでようやくリークは生き返り、ほうっと安堵したようだった。
「……明日にでも誤解を解かないといけないな。僕はこういう性格なんだと……どうにも、慣れていない相手だとだめだ。お前とだって最近ようやっとこうして話せるようになってきたのに」
「人見知りっていうんだよそういうの」
 ぼくはからから笑って頭をぽんぽんと撫でてやった。
 リークはやれやれと肩を竦める。

「でももし、マリアが恋愛的な意味で好きだったとしたら君はどうするのかな、と思ってさ……」
「そんなことはありえないと思うが……仮定で答えるとすると、今はそういうことは考えられない。それに僕は彼女に対してそういう感情は抱いてない」

 真面目腐って言うリークにぼくはため息を漏らした。
「将来的にはわからないじゃないか……」
「僕もお前と同じだよ。女性にはあまり興味がない。……昔から城では女性には優しくしろ、といわれているから感情抜きで接するのはまったく何でもないが……」

 ふむ、と頷いてぼくは夜空を見上げる。
 満天の星だ、雨にならなくてよかった。
 なんてのんきなことを考えてみてからぼくは焚き火の明かりに照らされるリークの顔を見た。

 マリアはすごく綺麗でしっかりしてるのにどこか儚くて、まるで世の女性の理想を一身に集めたような素敵な女の子だ。
 それもルビス様の加護なのかな。
 だけどリークも、王子としての気品っていうか……端整といっていい顔立ちをしていて、更に身体についてるしっかりとした筋肉は、ぼくには及びも付かない努力の賜物であって、彼の性格も現していると思った。
 この二人がそういう関係になったらたぶんお似合いなんだろう。

 そこまで考えて、ぼくはなんでこんな時にそんなことを気にしてるんだろうと思った。
 さっき見たマリアの涙が気になってるんだろうか。
 なんて思ってから。
 あれ、とぼくは、とあることに気づいてリークに尋ねてみた。
「女性には興味がないってことは男には興味があるってこと?」

 ぼくの質問にリークは思い切りげっそりとした顔になった。
「恋愛に興味がないという意味であって、……そんなに僕をホモにしたいのか。そうか」
 リークが握りこぶしを合わせてぽきぽき指を鳴らす。
「ごめんなさい」と冗談めかして笑うとリークは拳を下ろした。
「お前こそそうなんじゃないのか」

 リークとしては皮肉のつもりでそう返したらしかったけど。
「そうかもね」
 火を見つめながらやる気の無い返事をぼくが返したことにリークは黙り込んでしまった。
 会話が、続かない。
 別に続ける必要のある会話でもないんだろう。
 だけどぼくは沈黙に耐えられなくなって口を開いた。
「ぼく、女の子は嫌いじゃないよ。そして特別男に興味があるわけでもない、本当に恋愛にまったく興味がないんだと思う。……思ってた。でも、考えたんだ。ひょっとして本当に好きになれる運命の子が現れたら違うのかもって」
「……」

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□モドル□


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