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 リークは黙って聞いている。
 ぼくは続けた。
「もうひとつわかったんだ、……誰かが誰かを真剣に愛してる現場を見たことがなくて、……恋愛の仕方がわからなかったんだろうなって」
「恋愛の仕方、か……」
 ようやく言葉を発したリークはなるほどと頷くと、荷物を引き寄せて毛布を取り出した。
「恋愛をしたいのか?」
「したいとかじゃなくて」

 ぼくは首を横に振る。
「しはじめてるの、かも知れない」
「誰に?」

 問われてぼくは詰まった。
「……野暮な話だったな、誰が相手だなんて話したくないだろう。悪かった」
 ぼくが詰まったのはそこに、じゃない。
 誰に。
 誰に?
 本当に、誰に?

 さっきマリアが見せた涙。
 人は短期間でも恋に落ちることが出来るんだろうか。
 ぼくが昔から見てきた友達間の話でいうと、みんな、「相手が自分のこと好きかも」って脈を感じるからだんだん気になって、そしてどんどん好きになっていってって感じの付き合い方だった。
 でもマリアは、……さっきの涙は、ぼくはリークに対して「仲間に邪険にされてるのが辛そう」と誤魔化したけど……きっと、恋愛の意味での涙だったんだろう。
 自分を嫌ってるかも知れないと思える人に対してそんな感情持てるんだろうか?
 一旦何かで好きになってから嫌われたら悲しいと思うのはわかるけど、リークは最初からあの態度だった。

 それでも。
 それでもマリアは、彼のことが好きなのだ。
 マリアにとってリークは運命の人なのかも知れない。
 そして、運命の相手に出会って泣くほど相手のことを好きになったマリア、その姿を見てぼくの中の何かが動いたんだと思った。
 ぼくは。
 リークに、尋ねてみた。



「君に、っていったら? どうする?」
 リークは答えず、毛布にくるまって眠ってしまった。






 翌朝、日が昇って出発のころあいかなと感じたぼくはリークとマリアを起こした。
 まずはマリア。
 それからリークを起こすと寝ぼけた顔でリークは
「寄るなホモ」
 と冗談抜きにものすごく低い声で言った。
「はいはいすいませんでしたね、と。ほらミルク」
 軽く流して、暖めておいたミルクを手渡すとリークはため息を漏らしてそれを口にする。
「……もう僕にあの手の話はしないでくれ、出来れば。どういう展開になってもどう答えたらいいのかわからない」
「あー……だろうね」

 ぼくは苦笑すると自分の割り当てのパンを一口食べた。
 冗談のつもりで軽く流してくれればよかったのにと思うけど、生真面目リークは流せなくて、……あれ。
「ひょっとして一晩中考えてたりした?」
 ぼくが少し驚いた様子で尋ねると、リークはあわてて首を振った。
「そういうわけでは……」

 彼にしては珍しい慌てぶりにぼくはにんまりとしてしまう。
 考えてたんだな、これは間違いなく。
 ここでぼくのいたずら心がむくむくと起き上がってしまい、ちょっとからかってみようと思った。
「愛情に男も女もないと思うんだ。そもそも、世の中には男と女の二種類しかいなくてさ。どっちもほとんど似た形をしてるんだから、そして魂の姿には性別はないんだから……男が男を、女が女を好きになることもありえると思うしぼくはそれを否定する気はないよ」
「それは、まあ……理論上ではそうだけれど」

 難しい顔をしてミルクとパンを交互に口にするリーク。
 マリアはといえば、手鏡を見て髪を整えているようだ。
 ぼくは更に続けた。
「わかるだろ? で、君はぼくが君を好きだったとしたら気持ち悪いの?」
「む……」と唸るとリークは再び黙り込む。
 それから、先ほどのぼくの言葉を思い返したのか、はっとしてぼくを見る。
「『否定する気はない』、か」
「ん?」

 ぼくは首を傾げてから、ああしまった、と彼の指摘を理解した。
 否定する気はない、つまりぼく自身はそうじゃないけど他人のそれは否定しないよ、って意味になるじゃないか。
「朝からくだらないことを言っていないで、さっさと支度をしてくれ」
 呆れてため息を漏らすとリークは残ったミルクとパンを口に放り込み、荷物の準備をはじめた。
 ちぇ、失敗しちゃったか。

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□モドル□


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