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 それから風の塔へ向かう道中のことだ。
 マンイーターとヒババンゴ、かぶとムカデの群れに出会ってぼくらはいざ対戦ということになった。
 マリアは風の魔法バギでかぶとムカデを。ぼくは炎の魔法ギラを駆使してヒババンゴと戦っていた。
 ぼくの担当を片付けたところでリークの加勢をしようと振り返る。
 と、いつもの切れ味が無い、リークは相手に何度もかわされながらも苦戦しているようだった。

「リーク!」 
 駆け寄ろうとしたその時、足元の何かにつまづいた。
 あいて! と声を出しながら見ると、モンスターのスモークが足に絡み付いていた。
 しまった、確かこいつは魔法が効かない上に封呪を仕掛けてくる……。
 ぼくは封呪される前に慌ててリークの加勢のための魔法を飛ばそうとした。
 けど、あえなくマホトーンをスモークに唱えられてしまい。
 役立たずになって撃沈してしまう。

「カイン!」
 マリアがぼくのところに飛んできた。
 ぼくはとりあえず鉄の槍でスモークの「核」をえいっと突き刺していた。
「ぼくはいいから、リークを!」
 スモークは大した敵じゃない。
 マリアもそれを見て取ったようでリークの元へと向かう。

 リークの苦戦には拍車がかかっており、なんと剣を触手に奪われてしまっている。
 仕方なく拳で殴りかかろうとしていたところに、マリアがバギを飛ばして一撃でマンイーターを葬り去った。
「……すまない、助かりました」
 荒い息を整えながらリークが剣を拾う。
 ぼくもスモークを無事に倒し、二人の下へ歩み寄ろうとした。
 けど、マリアが何か思いつめた顔でリークを見ているのでちょっと離れてみることにした。

「レイカーリス王子、尋ねたいことがあるのです」
「……何でしょうか」
 剣を背中の鞘に収めながらリークが応える。
 マリアは思い切った顔になって、言った。
「貴方はわたくしを疎まれてらっしゃるのでしょうか」
 緊張したマリアの顔。
 反面、リークは面食らった顔をしていた。

「何故そのように思われるのです」
「……朝も、起きても何も声を掛けて下さらない。カインとは話をされてらっしゃったのに。道中もまったく一言も無くて、そして今の戦いでようやっと短い言葉を発しただけ。……わたくしが貴方の命を聞かず、旅についてきたことにお怒りなのはわかっています、でも……そのような対応をされるのでしたらわたくしはこれから、どうしたら良いのか……」
「ですから私達が申し上げたとおり国に保護してもらって下さればそれが一番助かるのです。無理を通して付いてくるというならそのようなことで一々嘆かないでいただけませんか」
 
 言われてマリアはひどく傷ついた顔をする。
 ぼくは「あーあ」と大きくため息をついた。
 誤解を解くっていってたくせにこれじゃ誤解じゃなくて真実みたいになっちゃうじゃないか……。
 ぼくが間に割って入ろうとした時。

 マリアが、大粒の涙を零し始めた。
 さすがのリークもぎょっとする。
 両手で顔を覆うと、彼女は嗚咽を上げ始めた。
「どうして、……、あの方と同じ顔で、同じ声で、そんなに酷いことを、おっしゃるのですか。……私は、私は……」

 え、なに? なに?
 あの方???
 ひょっとしてマリアはリークを好きなんじゃなくて、リークにそっくりな誰かとリークを重ねていた?
 ぼくの頭がぐるぐると混乱している間に、リークは行動に出ていた。

 ぼくは思わずその場面から顔をそらしてしまう。
 リークが、マリアを抱きしめたのだ。
 抱きしめられてマリアは驚いて顔を上げた。
「……あの方というのがどなたかは存じませんが、その……申し訳ありません。昨夜カインにも言われました。別に貴方を疎んじているわけではなく、本当に思ったことを行動に出しているだけで……」
「思ったことを行動に出しているということはやはり私を嫌っているのではないでしょうか……」

 涙声でマリアが続けた言葉にリークは首を振る。
「人と接するのが下手なのです、一国の王子として情けない話ですが。……どのような理由であれ、貴女を泣かせることはしたくなかった。カインはああいう性格だし僕と同性で、だからこの旅に不都合はなかったけれど……貴女は女性で……僕は不安だった。だから国で保護されて頂きたいと……」
 リークの珍しい必死なアピールにようやっとマリアは落ち着いてきたようだった。

 それにしたって、マリアがリークを気に掛ける理由がこんなところでわかるとは思わなかった。
 マリアには好きな人がいて、リークがそれに似てたから気になってた。
 それだけの話だったなんて。
 だけど……好きな人とそっくりな人に相手にされないことを嘆くのって、それって恋愛に発展する可能性が高いんじゃないだろうか。

 ぼくは顔をそらすのをやめてぼうっと二人の様子を眺めた。
 リークが優しく彼女の頭を撫でてから離れる。
 マリアは涙をぬぐって微笑んでいた。
 二人の様子になんだか妙な気持ちが湧き上がる。
 なんだろう、これって。
 ぼくは首をぐるりと回してから二人に歩み寄った。

「仲直りした? じゃ、行こうか」
「ん」
 荷物を手にして、ぼくらは一路風の塔へ向かった。

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□モドル□


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