5

 巨大な塔がひとつそびえ立っている。
 ここが風の塔と言われるところで、元はムーンブルクの管轄化にあったところだ。
 主を失い、寂しげにその塔は立っていた。
 というところで日が落ちてしまい、塔を登るにも松明がないということでぼくらは一晩を塔の1階の隅で過ごすことと決めた。
 外でキャンプを張ったほうが良かったのかもしれないけど、あいにく雨が降ってきてしまったのだ。

 雨のせいか少し冷え込み、ぼくらは寄り添って焚き火を囲んだ。
 マリアを先に眠らせることにし、昨夜のような状況になる。
「リーク、……そういえば君達いつまで敬語なの」
 ぼくの問いにリークはやれやれと首を振った。
「ずっとじゃないのか? 敬語だとだめだという理由もない」
「……不自然じゃない? それに今日ずいぶん打ち解けてたじゃないか」

 今日、といわれてリークは今日の出来事を思い出すかのように宙に目をやった。
 ぼくは体育座りの形で膝に顎を乗せる。
「てっきりマリアは君の事好きなんだと思ってた」
「だからありえないといったのに」
 ぼくの反応にリークはおかしそうに口元で笑みを零す。

「ローズマリー王女が好きなのはお前なんじゃないのか」
 リークに言われて「は?」と口を開けてしまった。
「なんでまた」
「お前とはもう愛称で呼び合う仲になっている。それに敬語でもない」
「僕がそうしろっていったからだよ。それをいったら君だってぼくのことが好きってことになるだろ」

 ぼくは呆れてため息を漏らした。
 が。
 リークがぼくの言葉に凍り付いてまた何事考え込みはじめたのを見て、ぼくは口に手を当てて吹き出してしまった。
「……何を笑ってるんだよ」
 ぼくの様子を見てリークが睨んでくる。
「だって、昨夜のぼくの冗談のせいでずいぶん気にしてるようだからさ。あはは、悪かった悪かった」
「……」

 リークは、黙り込んだ。
 気を悪くしたのかも知れない。
 確かにずいぶん仲良くなったつもりではいるけど、やっぱりこいつは時々わからないことがある。
「今日さ、マンイーター程度にすごく苦戦してただろ。あれはどうして?」
「……ここだけの話だ。考え事を、していた」
「考え事?」

 ぼくの問いにリークは炎を見つめたまま頷く。
「昨夜お前に言われたこと」
「恋愛の仕方、のこと? それともぼくの冗談のこと?」
「……両方さ」

 ひとつ、小枝を折って焚き火に入れながらリークは続ける。
「お前と同じように僕も恋愛なんて良くわからないといっただろ。……恋愛の仕方が同じようにわからないのだろうか、と思った。将来……世継ぎとしてローレシアを継がなくてはならない可能性は高くて」
 この「可能性は高くて」という言葉にぼくは少し引っかかった。
 継がなくてはならなくて、が正解なんじゃ?
 だけど、つっこまずにとりあえず話の続きを聞く。

「だから恋愛なんてしなくても勝手に妻をつけられる可能性も高い。その時に相手を愛せなかったら相手に申し訳ないのじゃないかと。だから、出来ればそれまでには人を愛するということを覚えて、愛した人を妻にしたい」
「なるほど、なぁ。それは考えてもみなかった」
 ふう、とため息を漏らしてぼくは天井を仰いだ。
 彼の言うことはもっともで、ぼくにだって同じ運命が待ち受けているのだ。

「続きがあるんだ。聞いてくれ」
「うん」
 もうひとつ枝を炎の中に投げ入れ、リークは言った。
「……だけれど、もし僕が本当は女性は愛せない体質で、男を好きになったとしたらどうしたらいいんだろう、とも思った」
「…………は」

 思わず変な声を漏らしてしまった。
 何を悩んでいるんだこいつは。
 ぼくが変なこといったから自分は本当にホモかもとか思っちゃったわけか?
 ぼくは思わず吹き出すとリークの頭を軽く叩いてやった。
「君こそしょうもないことで悩んでるなあ! じゃあぼくからアドバイス。男を好きになったなら、なったでいいんじゃないの?」
「え」

 思わぬ返事だったらしくてリークはぽかんとしてしまう。
 ぼくは更に言った。
「女性と結婚するかどうかってのは世継ぎを作る問題ってだけでさ。もし男同士でも世継ぎが出来るなら男同士だって構わないわけじゃないか。それが出来ないからだめなだけなんだよ」
「……そういう問題だろうか」
 額に「む」の字を浮かべてリークは悩む。
 こういうところが面白いなあ、と思ってぼくはもっと続けてみる。
「世継ぎが問題なら、お妾さんをとればいいんだ。普通に異性の結婚でも子供が生まれない人たちは居る。王家でそれが起こると問題があるからこそ、世の中のお妾さんの制度があって、王家は一夫多妻が許されてるんだろ」
 ぼくの言葉にますます説得されてるのか、それとも反論できないのかわからないけどリークは頷きながら大人しく聞いていた。
「それと同じことだよ。男を好きになったら結婚しちゃえばいいんだ」
「その場合……」

 リークが言いよどんだ。
 なんだろう、とぼくは彼の言葉の続きを待つ。
「……何?」
「その場合、どちらが上でどちらが下だとかそういう、のは」
 上と下。
 ああ。
 つまり、タチとネコってことね。

次へ



□モドル□


Presented by 小説X ver1.1,