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 王子のクセにこういう下世話な言葉を知ってるぼくもどうかと思うけど、だってサマルトリアって開放的な王家なんだから仕方ないじゃないか。
 なんて誰にともなく言い訳してみるとぼくは、ふむ、と考え込む仕草を取った。
「お互いの話し合いというか合意の上で決定するんでいいじゃない」
「……もしそうなった場合は僕は上でいたい」

 ……あー、えーと。
 ぼくのところはさっき言ったようにすごく開放的で、こういう話をしててもぜんぜん構わないんだけど。
 リークのところはたぶん、彼を見ていてもわかるように割と厳格な育て方をしてるんじゃないかと思うというかそれが普通なわけで。
 こういう下世話な話題を続けててもいいんだろうか。
 それに上とか下とかそんなところまで考え込む必要が、今、どこにある。

「あのさ、リーク……」
 ぼくは苦笑いしながら声を掛けた。
「何」
「……そういうのは、本当に男の人を好きになっちゃってから考えても遅くないんじゃ……」
 ぼくに言われるとリークは一度視線を逸らした。
 それから、荷物袋を手にしてそれを枕にすると横になって僕に背を向けた。

「……何か怒った?」
 何となくいつもの無愛想を通り越して本当に不機嫌になったように見えたぼくは、おそるおそる、声を掛けてみる。
 すると。
 彼は、背を向けたまま、言った。
「……僕がお前を好きだっていったらどうする」

 ぼくの思考が停止する。
 今なんていった?
「リ、ーク……」
 声を掛けてももう彼は反応しない。
 たぬき寝入りか本当に寝てしまったのかわからないけど、とにかく今は答えるつもりはないようだった。
 ぼくは朝まで悶々として眠れなかった。




「おはようカイン、……今日の朝はレイカーリス王子に番が回っているとばかり思っていたけれど……」
 マリアを起こすとそういわれ、ぼくは、はは、と苦笑いした。
 本当は深夜に交代する予定だったのに、ぼくはまったく眠れなくてリークを起こさずずっと見張りを続けていたのだ。
 ちらりとリークを振り返る。
 ぼくが起こさなくてはならないので、まだ、起きていない。
 どうしようか迷って居るとマリアが不可思議そうな顔をしながらリークに近寄って軽く揺すった。

「レイカーリス王子、朝です」
「ん……」
 マリアに起こされてリークは目をこすりながらゆっくり起き上がる。
 ちぇ、ずいぶんのんきに寝てたもんだなあ、人の気も知らないで。
 そうしてから明らかに寝ていない表情のぼくに視線を向けると、「ふ」と口元に笑みを浮かべた。

 あれ。
 まさか。
 もしや。
 ひょっとして。

「……おとといの仕返し?」
 ぼくが金魚のように口をぱくぱくさせていると、リークはしれっとしながら食事を取り出して口にし始める。
 仕返しとは何のこととだろうとマリアはきょとんとしているが、ぼくはそれどころではない。
「さ、策士め……っ!」

 ぶるぶると震える僕を後目にリークは黙々と食事を続けていた。
 当然今日のぼくは寝不足でまともに戦えなくて、へとへとになりながらも塔を登る羽目になったわけで。
 ……だけど。

 このことが原因で、ぼくらの関係がおかしなことになるとは、このときはまだ思っていなかった。

END



□モドル□


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