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 風の塔、といわれるだけあって塔の中は風が吹きすさんでいた。
 昨夜塔の1階で野宿した時点では1階だったせいかなんとも思わなかったけど、取り分け2階以降が凄い。
 あちこちの窓や壁の隙間から風が出入りしていてぴゅーぴゅーと音がする。

「こりゃあ……」 
 ひゅう、と口笛のような息を漏らしてぼくが言うと、リークはぼくとマリアに振り返った。
「寒くはないか?」
「まあ、別に」
 けっこう厚めの法衣に身を包んでいるからぼくは平気だ。
 マリアに顔を向けると彼女も「大丈夫」と頷く。

 さて、風のマントを探そう。
 そう思って歩き出したとたんにリザードフライの大群が登場するわけだ。
 いつものザコ敵に対するがごとく、マリアの風の魔法とぼく……今回は魔法じゃなくて槍……の攻撃でリザードフライにダメージを与え、リークが止めを刺す。
 あらかた片付けたところでリークは敵が落とした金品を拾いながら、ぼくらに言った。
「これから、当分魔法は出来るだけ抑えよう」
「それは……」

 マリアが不安そうな声を上げる。
 力の弱い彼女は魔法が使えないとなると存在意義を失ってしまうと考えたんだろう。
「王女は薬草を持って補助の役割に回ってください。それ以外は防御を固めて僕らの後ろに」
「でも、レイカーリス王子」

 マリアは少し怒り気味に抗議の声を上げた。
「それでは私は守ってもらうばかりではありませんか」
「文句を言う前にご自身の腕をご覧になってください」
 言われて、マリアは先ほどリザードフライが一度ギラを放ってきた時に腕を掠めた部分に触れる。
 大したケガではないけれど……。

 リークは立ち上がると薬草と包帯を取り出してマリアがケガした部分に宛がった。
 マリアは大人しくされるがままになっている。
「……貴女にもしものことがあると困るのです。旅の同行を許した僕としては、……貴女を必ず守るというムーンブルク王との誓いを破るわけにはいかない」
「お父様、と……」
 王の名が出てマリアの瞳が潤むのがわかった。
 リークは治療してやったマリアの腕から手を離すと、涙ぐんでいる彼女の頭を優しくなでてやった。

「薬草で間に合わない時はあなたの治癒の魔法でお願いします。そういう意味でも、魔力は節約したいのです」
「……わかり、ました」
 素直に頷く。
 あー、これでまた彼女の中のリークの株が上がったなあ、なんて考えてしまった。

「はいはい、のろけてないで行こう行こう」
 ぼくはわざとらしく手をぱんぱんと叩いて二人を促した。
 二人ははっとして互いに背を向ける。
 なんなのんぼくって。お邪魔虫?

 はぁ、と大きくため息を漏らすとぼくはさっさと歩き出した。
 時。
「………っうぉあ!!?」

 外壁がない通路、だった。
 つまり外に吹き抜け。
 それをすっかりと忘れていたぼくは、足を踏み外してしまった。
 昨夜寝てないせいで、頭の一部がぼうっとしていたせいもあったみたいだ。
 ここは2階、落ちても死なないかもしれない。
 でも死ぬかも知れない。
 必死に片手で床を掴んだ。

「カイン!!」
 二人が叫んで駆け寄ってくる。
「今、引き上げる、……」
 リークが床を掴んでいるぼくの手を握って思い切り引っ張った。
 マリアはそれを支えようとリークの腰にしがみつき、後ろに引いている。

 ややあって、ぼくはどうにか引き上げてもらうことに成功した。
「……はぁ、はぁ、死ぬ、死ぬかと、」
「馬鹿! 気をつけろ!!」

 まだ心臓がばくばくいってるぼくに、リークがいきなり怒鳴りつけてきた。
 ぼくは呆気に取られて彼を見る。
 そうして、その表情を見て一層呆気に取られてしまった。
 それはマリアも同じだった。

 泣きそうな顔をして、怒っているのだ。
 いや。
 泣きそう、じゃない。
 うっすら涙を浮かべていた。
 な、なんでいきなりこんな? ぼくが落ちそうになった程度で?

 ぼくが目を白黒させていると、リークは慌てて涙をぬぐった。
「……2階程度でも死ぬことだってあるし、骨折して当分動けなくなったりすることもある、……治癒の魔法で効かないほどの酷い怪我を負ったら、どうするつもりなんだ……」
 弱弱しい口調でリークが言った。
 泣いたことに気まずさを感じたのか、それとも。
 ぼくはなんとなく嬉しくなって「ありがとう。ごめん、気をつける」と立ち上がってお礼を言った。
 それに少し照れたようで、リークは背を向けるとぼくらを促して歩き出した。

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□モドル□


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