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 それから外壁から足を踏み外さないように気をつけつつ、ぼくらは塔の中を散々うろつき回ってついに風のマントとおぼしきものを発見した。
 マリアによるとこれはムーンブルクの宝で、風の精霊神シルフがつかさどる魔力を封じ込めてあるらしい。
 大地の精霊神ルビスとの眷属関係にある神だ。

「これで噂のドラゴンの角を飛べるはず、だね」
 ぼくに言われてリークは頷くと、そのマントを身に纏ってみた。
 うん、似合うんじゃないかな。
 ぼくはもともとマントを身に纏っているけどリークはそういえばそういうものを着けてなかった。
 なんだかこういうものを纏うといよいよ王子様っぽい。
 いや、ぼくも王子様なんだけど。

「それでは行きましょうか」
 マリアに促されてぼくらは塔を後にした。

 塔を降り、ムーンペタまでキメラの翼を使うことにする。
 ムーンペタでルビスの祝詞を受けているから、その方が戻るのが楽だろうと判断したのだ。
 魔力によって飛んだぼくらは、それでももはや夜になってしまっていてすぐに宿屋へと駆け込んだ。

 二人部屋と一人部屋を取って案内してもらう。
 ぼくは通された部屋に荷物を投げ出し、マントをはずすとベッドにごろんと寝転んだ。
「あー、今日も疲れた! たくさん疲れた!」
「全員無事で良かった」

 リークは言いながら剣を鞘から出し、磨き始めた。
「はぁ……真面目だねぇ」
「お前も槍を整えておかないといざというとき困るぞ」

 ぼくに呆れてからおかしそうに笑うリーク。
 あれ、と思った。
 こんな顔して笑うリークはひょっとして初めてじゃないだろうか。
 し、肖像画!
 いや無理か!
 何か、何か今の顔、取っておくもの!!

 ぼくがどたばたとしているとリークが不思議そうな顔をする。
「……何か探しているのか?」
「いえ、別に……」

 諦めたぼくはガクリと肩を落とし、仕方なく槍を手にとってリークの隣に座ると一緒に磨き始めた。
「リークは、偉いよなあ」
 しみじみというぼくにリークは一度顔を向けてから、返事をせずまた剣に視線を戻す。
「こうやって日々精進して……仲間の無事を気遣って。リーダーの素質があるのって君みたいなやつのことをいうんだろうなあ」
「そんなもの、無い……。今日だって取り乱してみっともないところを見せた」

 自嘲気味にいう彼の言葉に、ぼくは何かあったかなと思い出してみた。
「ああ。……ぼくが落ちそうになったときのあれ、か。みっともなくなんかなかったけど。ぼくは嬉しかったよ、そんなに真剣に心配してくれて」
「……」
 リークはまた照れたのか黙り込む。
「でも落ちそうになったのがぼくで良かったよ。ぼく程度ならもし死んでも旅には支障ないだろうし」
 ぼくが笑いながら冗談交じりにいうと、リークは急にむっとした顔になった。
「……馬鹿なことを言うな。今度言ったら張り倒すぞ」

 なにゆえですか。単なる冗談ですよ、ぼくだって死にたくなんかありませんよ。
 という言葉が出ないまま、ぼくはごくりと息を飲み込んだ。
 彼は怒ってる、かなり本気だ。
「冗談だよ。そこまで怒ること……」
 ぼくが冷や汗をかきながらいうとリークは大きく息を吐き、「ごめん……」と謝った。
「……なんだか今日の僕はおかしい。悪い、もう寝る」

 言うなりリークは剣を鞘に収めてベッドの脇に立て、布団に潜り込んでしまった。
 何が起こったのかわからないぼくは「リークさーん?」と声をかけ肩を揺さぶる。
 この人帽子つけたまま寝てるよ。
 呆れて帽子をはずしてやると、リークは当然ながらまだ寝てなかったのでこちらに向いた。

「……カインが死ぬなんて、考えられない」
 リークがぽつりといった。
「それは、……ぼくだって君やマリアが死ぬなんて考えられない」
「お前はローズマリー王女が好きか」

 何もかもの会話をいきなりすっ飛ばしての質問にぼくは一瞬で頭が真っ白になった。
「……はい?」
「好きかどうか聞いているんだ」
 思わずの迫力に、ついこくこくと頷いてしまう。
 するとリークは起き上がり、自信のなさそうな顔で、言った。
「……なら、僕は」

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□モドル□


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