部屋を訪れたマリアが泣きはらしているのにぼくは唖然としてしまった。
 何が起こったんだ、あの夕食の後から。
「と、とりあえず入って」
 無言で佇む彼女の肩を抱いて部屋に招き入れる。

 扉を閉めてから改めてマリアに向き直った。
「……どうしたの?」
 尋ねると、マリアは自分の目元を拭ってから小さく笑った。
「ごめんなさい個人的なことだけれど。……アゼル王子が私の部屋でご立腹でらっしゃるだろうから、貴方のところに行けとリークに言われたの」

 うーん状況がさっぱりわからない。
 とりあえずアゼル王子とリークとマリアが一悶着あって、それでぼくのところに行けって言われたのか。
「ケンカした?」
「ケンカというより……アゼル王子の好意を拒否してしまった形になったから」

 ため息を漏らすマリアに、ぼくは続けた。
「違うよ。リークと君が、さ」
 言われて目を丸くしてから、マリアは視線を落とす。
「いいえ、そういうわけではないのだけれど……。なんとなく、気まずくなってしまって」
「良かったら何があったか聞かせてよ。吐けば楽になるかも」

 でも、とマリアが迷った瞳を見せる。
「貴方にも少し関係があるから」

 ぼくが知らないうちにぼくを巻き込んでケンカしないで下さい。
 ……と、喉まで出掛かったけどひとまず抑えた。
「いいよ、っていうかぼくが関係あるなら益々ぼくが聞かないとわけわかんないしさ。とりあえず座って。あ、お茶飲む?」
 窓辺のテーブルに案内して椅子に座らせる。
 ぼくはサーバーに溜めておいたお湯を持ってきて紅茶を淹れた。

「あったかいの飲むと落ち着くと思うから」
「ありがとう」
 マリアは受け取って紅茶を口にする。
「ローズヒップね」
「君と同じ名前の」

 うん、とうなずくとぼくも自分の分の紅茶をカップに入れて飲む。
 ふー、と人心地ついて、さて。

「リークと、どうしたの?」
 その問いにマリアは視線を落とした。
「彼が、……誰を愛しているか。そして私が誰を愛しているか。それを確認してしまっただけなの」

 リークの愛する人。
 それっ、て。

 会話を繋げると大体の予測は出来た。
 マリアがリークのことを好きなんだろうということはぼくも前から気づいていたことだ。
 もしかして告白して、リークに拒否られた?
 あー、でもなあ。
 リークはぶっちゃけていうとぼくとマリアに二股かけてる状態なはずで、マリアの申し出を無碍に断るとも考えにくい。
 考えられることといえば、リークもマリアも「カイン」……ぼくに対して気を使ったかも知れないってことだった。

 ぼくは敢えて、尋ねてみることにした。
「マリアは『あの方』のことが、……今でも好きなの? それとも思い出の人として焦がれてるだけ?」
 ぼくの問いにマリアは黙り込む。
 どう回答しようか考え込んでいるようだった。

 しばらくしてから、ようやっとマリアは口を開いた。
「愛しています、あの方のことを」
 その回答にぼくは肩をすくめると、紅茶をひとつ、口にする。
「……そう。なるほど、気まずくなった理由ってそれか」
「なるほど、って?」
 マリアがきょとんとしたのでぼくは苦笑しながら答えた。

「ん……いや、ぼくもさ、……君と同じ相手を好きだから、わかるんだ。あいつが何をどう考えてるかわかんなくて時々不安になることがある……けど考えても仕方ないし、何かあればその時はその時かなってちょっと開き直ってる部分もあるんだけどね」
 はは、と空笑いするぼくにマリアは不思議そうに首を傾げた。
「カインもあの方のことを好きだということ? ……どういうこと?」

 まあ、文脈繋げたらそうなるよね。
 あはは、と笑うとぼくは首を横に振った。
「リークだよ。君が好きなのは"あの方"じゃない。リークだ」
「……」

 マリアは眉を顰めた。
 ぼくの言葉に明らかに不機嫌になったようだ。
 でもそんなこと気にしてたら会話が進まない、ぼくはマリアから視線を逸らしながら続けた。
「君は自分で気づいてて言ってるのかそうじゃないのか、そこまではわからないけど……最初は"あの方"にリークを重ねて気にしてたんだと思うよ。でもずっと一緒に旅をしてたらやっぱりどうしてもそばに居る人間を優先すると思う」

「違います、私は違う、リークにそんな感情は抱いてないわ。大切な仲間。それだけなの」
「……いいけどさ」
 ぼくはため息を漏らすと一気に紅茶を呷った。
 話しながらだからぬるくなっていたそれを空にすると、カップをテーブルに置く。

その時。廊下から何やら激しい言い合いが聞こえてきて、ぼくらは驚いて立ち上がった。

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□モドル□


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