「貴様、馬鹿にするのも大概にしろ!!」 王子は叫ぶと、壁を殴った。 そんなに強く殴れば自分の手が痛いだろうに。 などと思いながらも、僕は大きくため息を洩らす。 「馬鹿になどしておりません。私は事実を述べただけです。……頼みます、もう彼女に手を出さないでいただけませんか。彼女は貴方を愛していないし、私どもとの旅の続行を望んでいる。貴方の入る余地などないのです」
すらすらと。 相手を罵倒するための言葉が口をついた。 王子を見ると、まるで金魚のように口をぱくぱくとさせている。 それから息を一つ飲み。 ……僕に、殴りかかってきた。
「由緒ある我が王家を愚弄するとはその罪極刑に値する!」 だが、僕は軽く横にかわすと、かわされて行き場を失った彼の背中を軽く押してやる。 王子はあっさり、床に倒れ込んだ。 「……ラダトームは愚弄しておりません。貴方があまりにも私につっかかってらっしゃるので、貴方個人について申し上げたまでです。……何度でもいいますが、マリアは貴方を愛してはいない」
王子は床から身を起こすと、なんとも憎々しげな瞳で僕を睨んできた。 それから。 「ふん、……ローレシアとラダトームの関係はこれで終わり、だな」 「構いません。女性を権力と腕力で無理やり物にしようとする相手との国交など、こちらからお断りです」
そこまで言ってしまってはまずい、謝らなくては。 もう一人の僕はそう囁いてくる。 しかし、今の僕は相変わらずそれに従う気はない。
「……貴様、貴様だけは許さん! 今すぐこの国から出てゆけば首を取るのだけは勘弁してやろう!」 「言われなくともそうさせていただきます。マリアは連れて行きますが」 「貴様のような蛮族に彼女を渡すわけに行くか! 何がロトの子孫だ下らない、ロトなど元はと言えばどこの馬の骨とも知れぬただの平民ではないか!」
その、言葉に。 僕の頭の血が沸騰するのがわかった。 僕がどれだけ欲していたかわからない、神聖なるロトの血。 それを愚弄されて、ここまで怒髪天を衝くとは自分にすら予想出来なかった。
「……いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるでしょう!」 「先にこちらを愚弄したのは貴様だ。何度でも言ってやろう、ロトなどただの平民、運が良かっただけの馬の骨だ!」 「その馬の骨に救われたのはどこの国だ! 言ってみろ!!」
完全に冷静さを欠いた僕は、王子の襟首を掴み上げていた。 拳を振り上げ殴ろうとした、その瞬間。
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