「何やってんだよ君は」
 呆れ声と共に、後ろから手首を掴む者がいた。
 驚いて振り返ると、カインとマリアが立っている。

「大声でやりあっててびっくりして来てみたらこの始末だもんなぁ。一体何がどうしたんだよ」
「……」

 気まずくなって手を下ろし、王子の襟首を解放する。
 アズムール王子は息を切らせて僕から離れ、それからすぐさま脇のマリアへと目をやった。
「ふん、ホテルへ行かせたというのは嘘か」

「ホテル?」
 カインが首を傾げるが、僕は答えず首を横に振る。
「……すまない。頭に血が上りすぎた」
 マリアが心配そうに、僕とアズムール王子を交互に見ている。
 それから僕のそばへとやってきた。

 僕のかたわらに寄り添い、申し訳なさそうにアズムールを見る。
「ごめん、なさいアゼル様……」
 それを聞いて王子は不可思議そうな顔をした。
「貴女が何を謝る必要があるのです。僕が怒っているのはそこの愚かな蛮族の王子だけだ」

 蛮族、な。
 どっちがそうなんだか。
 僕は心の中で悪態をつきつつも、マリアがどう出るか見守っていた。
 マリアはためらいながらも言葉を紡ぎ出す。

「彼は私の仲間です。彼のしたことは私の責任でもあります。どういった会話の流れかは存じませんが……処罰に値することならば、私が甘んじて受け入れますので、どうか、……彼には……」
「何を言っているマリア」

 僕は驚いて彼女を見た。
 彼女は眉を下げ、困ったように微笑むと僕から離れて王子の元へと行った。
 そして、王子の手を取る。
 王子はそれでようやく落ち着きを取り戻した顔になった。

 マリアの手を握り返すと、誇らしげに僕を見る。
 なんとも憎たらしい。
 マリアは僕に顔を向けるも、視線を合わせないまま。
 とんでもないことを言った。

「ごめんなさい。……私はこの城に残ります。これからの旅は貴方達だけで続けて」
「……マリア?」

 思わずぽかん、と口を開けてしまう。
 それから慌ててカインを見た。
 カインはやれやれ、と息を洩らして首を横に振ると、僕の肩に手を置いた。
「仕方ないよ。下がろう」
「お前まで、何を……」

 どうしたっていうんだ、なぜマリアは急にそんなことを。
 カインもどうしてそれを受け入れられるんだ。
 わからない、わけがわからない。
「待ってくれ、マリア、お前がここに残ったら、それは……」

「マリーに免じて貴殿を処分するのだけは避けてやろう。僕達はこのまま婚姻の儀を取り行わせていただく。だが貴方に参列していただく必要はない、即刻出て行ってもらおう」
 鼻息を荒くしてアズムールが言う。
 僕は狼狽して足元をふらつかせてしまった。
 それを見てカインが僕の肩を支えてくれる。

 そうして、小声で僕に、耳打ちした。
「ぼくに考えがある。今は大人しくして」
「……」

 大きく、深呼吸すると僕は姿勢を整えてマリアと王子に顔を向けた。
 泣きそうになっているマリアと、その肩を抱き、得意げな顔の王子。
 今すぐ引き剥がしてやりたかったが、カインが触れているその手の温度が唯一の僕の歯止めになってくれていた。

「明日の朝、出ます。申し訳ありませんでした」
 カインはぺこり、と頭を下げると僕の手を引いて僕の部屋へと促す。
 王子はそのまま「行きましょうマリー」と肩を抱いて歩いて行ってしまった。

次へ



□モドル□


Presented by 小説X ver1.1,