「リークがあんなに熱くなるなんてびっくりしたなあ……」
 部屋に入って扉を閉めた途端にカインが感嘆の声を洩らした。
 僕は黙り込み俯く。
 すると、頭に手を乗せて優しく撫でてきた。

「旅の始めの頃からすると君はだいぶ変わったよね」
「そんなことは、いい」

 言葉に不機嫌を込めて僕がいうと、カインは頭から手を下ろした。
 それから妙に真面目腐った顔になる。
「……言っただろ、考えがあるって。マリアは取り返す」
「考え……」

 僕が呆然とオウム返しするとカインは頷いた。
「ここは彼の手の内なんだってこと君は忘れすぎてるよ。あそこでマリアがああ出なかったら君は本当に捕らえられて処刑されてたかも知れない」
「……確かに……冷静さを欠きすぎていた、とは思う」

 何がそこまで僕にそうさせたのか。
 僕は首を振り、先ほどの会話を思い返した。
 マリアのこと。
 そして、ロトを馬の骨呼ばわりされたこと。

「……ま、彼がムカつく奴なのはわかるけどね。一体どんな会話になったの」
 問われて、もう一度会話を思い出そうと頭を回転させる。
 何しろ後半はかなり興奮していたのであまり正確に思い出せそうになかった。
「確か、マリアはいないのかと彼が部屋にやって来た。お前の部屋に居るのを悟られるとまずいと思ったから、王子が彼女に迫ったせいで気分が落ち着かなくなったようだ、街のホテルに行かせた、と答えた」
「あー、それでホテルがどうの言ってたのか」

 カインが頷くのを見てから僕は続ける。
「それで、兵を上げて探しに行くなどとあまりにしつこいから、お前はマリアに愛されていると一度でも言われた事があるのか? ないだろう。なのにしつこい、と言ってやった。そうしたら向こうが怒り始めて、ロトなんてただの馬の骨だ、と罵倒してきた」
「……」
 カインが黙った。
 目を白黒させている。
 そうして。

「……馬鹿か、君は?」
 心底呆れた、と言わんばかりに声を上げる。
 なんとなく気分を害して睨むようにカインを見ると、彼は肩を竦めて僕の背中を軽く叩いてきた。
「マリアがあの王子のこと好きじゃないなんて百も承知の事実じゃないか。マリアが好きなのは別の男で……でも、アゼル王子の機嫌を損ねると面倒な事になるから、適当にあしらってれば良かったんだよ。マリアもそのつもりで接してたんだと思う。その事実を突きつけられたらこっちの弱いところを突いて来るのは当たり前だと思うよ、ただでさえ人間の出来てないあの王子なんだから。……君が怒る気持ちもわかるんだけどさ」
 大きくため息を漏らしてカインはベッドに腰掛けた。

「意に沿わぬ相手に好きなようにされてもいいと? ロトがただの馬の骨だと言われても黙っていろと?」
 僕が怒り気味の調子で尋ねると、カインは「まあまあ」と手を振った。
「物はいいよう。……君もわかってるはずだ。ロトが一体何者で、どこから来たのか誰も知らない。言い回しによっては『馬の骨』っていう表現はある意味正しいってこと。……だから君は怒ったんだろ? 違う?」
「……」

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□モドル□


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