そういったわけで、ぼくらは東の尖塔の直下にやってきた。
 見上げると結構な高さで、見上げてこれだけ高く感じるんだから見下ろせばかなり怖いだろうことは予測がつく。
 マリアがぼくらの思惑に乗ってくれるかどうか、それが鍵だった。

 手頃な石を拾うと、ぼくはリークに手渡す。
「頼むよ」
「……あの高さに、窓を割らない程度の力、か……」

 少しだけ唸ると、リークは石を片手に振りかぶった。
 ひょい、と軽く投げつけるとなるほど強くも弱くもなさそうな力加減で、小石はするすると飛んでいく。
 やがて見事窓に「こつん」と軽い音を立ててぶつかった。

 しばらく息を飲んで様子を見守る。
 と、窓が開いた。
 さあどっちだ。
 王子かマリアか。

 窓から顔を覗かせたのは……果たして、マリアだった。
 ぼくは思わず叫びそうになったけどそれはかろうじて抑えて、彼女に向かって親指を立てて見せた。
「……カイン! リーク!」
 マリアは一度自分の背後を伺ってから、ぼくらの名を呼ぶ。

 王子はいない、と判断したぼくは声が届くように、少し大きめの声で尋ねた。
「マリア! 王子は?」
「私に渡したい物があるといって部屋を出ているわ。部屋の外には見張りが居る」
「だろうね! ……リーク」

 ぼくがリークに顔を向けると、彼も頷いて一歩前に出てくる。
 マリアは不思議そうにぼくらを見ていたが、やがてリークが両腕を広げて見上げて見せると、目をパチクリとしばたかせた。
「……まさか」

「マリア! ……絶対受け止めてやる、来い!」
 リークが力強く叫ぶ。
 すると、彼女は微笑んで頷いた。
「ええ。落とさないでね!」

 そう言った途端、マリアは後ろを振り向いて強張った顔つきになった。
 しまった、王子が戻ってきたんだ。
「マリア! 早く!」

 マリアが窓枠に身を乗り出す。
「何をしているマリー!」
 当然のことだろう、王子が騒ぐ声が聞こえた。
 だがマリアはそれを意に介さず……塔から宙へと身を躍らせた。

「マリー!!」
 王子が身を乗り出してマリアを掴もうとしたけど、遅い。
 その手は彼女の髪を掠めて……マリアはすごい勢いで下へ落ちてくる。

 リークはその様子をしっかりと眺めると、腕を広げたまま少しだけ移動した。
「……っ!」

 次の瞬間。
 どさり、という音とともに、目の前の空気が大きく揺らぐ。
 少しの間だけ時間が止まったような気がした。

 やがて。

「………はぁ、……」
 リークが大きく息をついた。
「上手く、……出来た」
 リークがしっかりと彼女を横抱きに抱えていた。
 マリアも大きく息を吐く。

「……ありがとう」
「カインのおかげだ」
 少し照れて答えるリーク。
 ぼくは手を横に振った。
「リークがいなかったらこんな無茶なこと、無理だったよ」
 
 ぼくらのやりとりに可笑しそうに笑みを浮かべ、マリアはリークの腕から降りようとしたけど。
 リークは降ろさせないように腕に力を込めた。
「……? リーク?」

 するとリークは僕に振り返る。
「このまま行こう」
「……OK」

 そう。
 ここは城の裏庭に当たる部分、アゼル王子が命令を出せばすぐに兵士たちがやってきてぼくらを取り囲むに違いない。
 そうなれば一巻の終わりだ。
 だけどぼくらには、……いや、ぼくには。「あれ」がある。

 ぼくはあらかじめ魔法陣を紡いでおいた羊皮紙を取り出すと、その図を右の掌に乗せ。
 左手でマリアと手を繋いでから詠唱文句を口にした。
「大地の精霊ルビスの名において術者、アシュカイナ・アレフ・サマルトリアが命ずる。我をその聖なる蒼き力に寄り彼の地へ運びたまえ!」

 とたんにぼくらの身体がふわりと浮き……宙に浮かんだ青白い光の中に、3人そろって投げ出された。
 その刹那、下を見ると兵士たちが群がってきていた。
 間一髪。
 そう。移動の術式、ルーラだ。

 キメラの翼を用意しておければ詠唱よりも早かったんだけど……買いに行っている暇はなかった。
 こういう時のために常に一つ携帯しておいた方がいいのかな?
 まあ、今はそれはさておき。

「これは一体どこへ行くんだ?」
 リークが当然の疑問をぶつけてくる。
「……うん、……それは着いてのお楽しみ」

 そうして、ぼくらはようやく目的地に辿りつき、ルーラの光に包まれたまま地面に降り立った。
 地に足がついたところで光が消える。
「ここは……」
 マリアの呟きに、ぼくは二人へ振り返ると、笑顔で、言った。

「ようこそ、我がサマルトリア城へ!」

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□モドル□


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