「ごめんなさい、……困るのです。そういうことをされてしまうと」
 はっきりと言わないとだめだと感じた。
 王子は私が何を言ったのかわからない、という顔をしている。
 それから、私の頬を撫でてきた。

「遠慮はしなくていい。僕と貴女はすでに身内のようなものだ。大丈夫、貴女は僕が守る。命に代えても」
「ですから、自分の身は自分で守りますし、……ロトの血でない方の同行は、困るのです」

 その言葉に。
 王子がぴくりと眉を動かすのがわかった。
 少し、不機嫌な表情。
「何がロトの血だ」

 さきほどまでの穏やかな口調が一変したのが手に取るようにわかった。
「何かあればロト、ロト。ロトだってただの人間だった、知っているでしょう? 彼はただ運がよかったに過ぎない。それを伝説化しているだけの話です」
 彼はその罵倒が私そのものへの批判だとわかって言っているのか、それとも。
 大きくため息を漏らすと、私は相手の身体を離そうと両手で押した。

「そうですね……ただの人間だったのかも知れません。だけれど勇者ロト、そしてその子孫の曾お爺様。その血筋が過去二度に及ぶアレフガルドの大難を救ったのは事実でしょう。私はその血に誓って、その血に於いて闇の成敗をなさねばならないのです。その時にロトの血ではない方がいらっしゃると、それだけその方を危険に晒すことになる……それが心配なのです」
「ロトの血ではないから危険に遭うとはいささか疑問が浮かぶが。……だが、貴女がなぜ僕の同行を拒むのかは理解しました」

 離そうとしたのが失敗してしまい、私は再び抱きしめられる。
 そのまま彼は……私の耳元に唇を寄せてきた。
 唇の感触が耳に当たり、びく、と身体を揺らしてしまう。

 私の反応に気を良くしたのか、彼はさらに大胆な行動に出てきた。
 そのまま。
 脇にあったベッドに、倒された。

 彼を見上げる形になった私は首を小さく横に振った。
「アゼル王子、……お戯れを」
「戯れなどではありません。早く、僕は早く貴女を手に入れたい。幼い頃からずっと貴女に恋慕してきました。貴女との婚約が叶った時は夢かと思いました。貴女は僕にとって女神……究極の理想なのです」

 いいながら首筋に唇を落としてくる。
 いくら悪意がないといっても、好意だといっても、これは、……。
「アゼル王子お願いです、お止め下さい!」
 思わず声を荒げてしまった。
「いいえ。やめません。……貴女が旅を続ける、そして僕に同行して欲しくないという我がままを通すつもりなら、僕の我がままも少しは聞いてくれてもいいでしょう? 僕は……早く貴女を娶りたいのです。婚姻の式が旅の後になるというのなら、せめて身体だけでも繋げておきたい」

 押し退けようと両腕に力を込めるけれど、相手の力に敵わない。
 両手首を押さえ込まれると彼は首筋に舌を這わせる。
 この時、ようやっと。私の身体に嫌悪が走った。
 好意に任せて……油断しすぎた、と思った。

 仕方がない。魔法で眠らせてこの場をやり過ごそう。
 そう考えて抑えられている手首で、それでも指先を小さく動かしてラリホーの術式陣を紡ぎ始める。

 けれど……彼はそれに気づいてしまったようだった。

「おいたはいけませんよ、姫」
 そういうと彼は私の手を握りこんできた。
 術式が紡げない、……どうしよう、どうしよう。
 困り果てて首を横に振るとそれをどういう意味で受け取ったのか王子が微笑む。
「大丈夫です、怖くありませんから……」
「怖い怖くないではなくて、その、私は、……」

 いやいやと首を振るも、聞いてくれない。
 そのまま彼は私と唇を重ねようと……まさに紙一重の位置に届いたその刹那。
「マリア、ちょっといいか」

 扉を叩く音。
 そして聞き覚えのある彼の声。
 私が慌てて扉に顔を向けると王子は私から顔を離して舌打ちした。
「リー、……」
 声を出そうとしてアゼル王子に口を塞がれる。
「少し待っていて下さい、姫」

 そういうと王子はベッドから降り扉へ向かった。
 私は起き上がって様子を見る。
 リークに、この王子と二人きりで部屋で過ごしていたことは……あまり知られたくなかった。

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□モドル□


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