僕が扉をノックするとほどなくして、アズムール王子が現れた。 思わず間抜けな顔になって相手をまじまじと見つめてしまう。 何故マリアの部屋から彼が。
「あの、……」 僕が声を出すのをためらっていると、王子が先に喋りだした。 「何か御用で。……王女は今、僕と愛を語らっていた所だったのですが」 「はぁ……」
ぽかん、と口を開けてしまった。 愛を。なあ。
僕が何も言わずに相手を見つめていたことに、王子は不快に感じたようだった。 「……何か」 「あ、いえその……マリアと明日からどうしようかという話し合いをしたくて」 「それは後にしていただけませんか。明日でもいいでしょう、僕としてはこの国に何日滞在してもらっても構いませんから」
そちらが構わなくてもこちらが構う。 僕は呆れたように大きくため息を漏らすと、相手の肩をつかんで押し退けた。 「入らせていただきます」 「待ちたまえ、勝手な男だな君は、こら」
部屋に足を一歩踏み入れたところで、王子が僕の肩を掴んで睨んでくる。 ふいに部屋に目を走らせるとマリアがベッドに座って不安そうにこちらを見ていた。 愛を語らっていた、にしては様子がおかしい。
「マリア……?」 「レイカーリス王子、いい加減にしてください」 アズムール王子が怒るがマリアが僕から視線を逸らしたのを見てますますおかしいと感じた。 「王子、……愛を語らっていたというのは"マリアが同意の上"で、……ですか?」 「当たり前だろう。さ、出て行きたまえ」
もう一度マリアに視線を戻すとマリアは依然、僕から視線を外したままだった。 二人でじゃれていたところに僕が来たから気まずくなったのか? それとも。 「マリア、……話がある。僕の部屋に来てくれ」 アズムール王子が僕を制そうとするが、僕はそれをすり抜けてマリアのそばに歩み寄った。
手を……差し出してみる。 マリアがこの手を取れば、僕の考えは当たっていたということだ。 取らなければ僕が単に野暮な真似をしたまでに過ぎなくなる。
「レイカーリス・アレン王子。いい加減にしていただかないと」 後ろからアズムール王子に声をかけられるが。 それとほぼ同時に、マリアは僕の手を握ってきた。 「……わかりました、……アゼル王子。申し訳ありませんがひとまず失礼いたします。明日からの詳細を打ち合わせなくてはなりませんので」
マリアの行動に王子は唖然として僕らを見ていた。 「行こう」 マリアの手を引いて立ち上がらせると、肩を抱いて守るように部屋を後にする。 王子は何も言えずにわなわなと拳を震わせながら、僕らを見送っていた。
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