「リーク……ありがとう」
 僕の部屋に入って扉を閉めたところでようやっとマリアが声を出した。
 僕は首を横に振る。

「予測が当たっていて良かった。違っていたら単に邪魔をしに行っただけになったしな」
「私、……どうしたらいいのかわからない」
 両頬を押さえてマリアは、はぁ、とため息を漏らす。
 僕は黙って次に彼女が何と口にするのかを見つめていた。

 彼女はそのまま、僕にすがりついてきた。
「怖い。どうしたらいいのかわからない。確かに私のお父様はラダトームに世話になっていた、だから、王子を無碍にするわけにはいかないの。だけれど心がついていかない……、私はあの人を愛せない。私、……私」
 声が震えている。
 顔は俯いていて見えないが、おそらく泣いているのだろう。

 僕は……そっと彼女を両腕で抱き寄せた。
「意に沿わない結婚なら振り切ってしまえばいい……今のムーンブルクの当主はお前だ。現状はまだ復興できていないけれど、将来復興した時にその采配を決めるのはお前だ」
「そう、出来たらいいのだけれど……」

 大きく息を漏らし、目元をぬぐうとマリアは僕を見上げる。
「それで……どうしたの? カインは部屋に?」
 僕は頷くと視線を外してから言った。
「カインは自分の部屋に居る。……その、……アズムール王子、のこと、なんだが」
 その名を聞いてマリアがぴくりと肩を揺らしたのが見えた。
 気まずそうに視線を落とす。
 僕はためらいながらも言葉を続けた。

「……アズムール王子にはもう関わらないほうがいいだろう。ロトのことも曾爺さんのことも得られていないけれど……明日発とう」
 それを聞いて彼女は目をしばたかせながら僕を見上げる。
「でも、そうしたらこれからの旅は」
「きっとなんとかなる。……僕らにはルビスの加護がある。お前を泣かせるような、あんな男に頼る必要は何もない」
 それを聞くとマリアは首を横に振って眉尻を下げた。
「違うの、……泣いたのは、違うの」

 何が違うというのかよくわからない。
 先ほどアズムールに何事か迫られたことで泣いたと思っていた。
 それに対する嫌悪以外の理由?

「違う、とは?」
 マリアは視線を落とす。
 ややためらってから、僕の手を両手で包み込むように握り締めてきた。
「確かに、アゼル王子のことは……苦手なんだけれど、あれも好意の一種だと思えばそれほど苦ではないの。私が泣いたのは、大切な人を裏切ってしまったように思ったから」
「大切な人……」

 マリアが時折口にする「あの方」。
 その人物のことを言っているのか……。
 そう考えた途端、なぜだか僕は心が締め付けられるように感じた。
 この気持ちはなんだろう、よくわからない。

次へ



□モドル□


Presented by 小説X ver1.1,