僕は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてしまった。と、思う。おそらく。
 自分の顔は見えないので予測でしかないが。

 何故この流れでカインの話が出るのか……。
「何故急に……」
「もしそうなら、無理だと思ったから」

 無理。
 何がだ。
 わけがわからない、彼女の頭の中では繋がっているのだろうが、僕にはさっぱり伝わらなかった。
「無理って……何が」
 問うと、マリアは首を横に振る。
「貴方が私を見てくれることは永遠に無いと思ったから」
「それは、どういう、……」

 僕は目を細めて彼女を見た。
 彼女は僕と視線を合わせない。

 ちょっと待った、状況を整理してみよう。
 アズムールにされたことを憂いたマリアは、気持ちを落ち着かせるために僕にそばについていてほしいと言った。
 そうして、突然キスしても良いかと尋ねてきた。
 僕がそれに回答しなかったら、カインが好きかどうかと聞いてきた。
 そして、もしそうなら僕がマリアを見ることは永遠に無い?

 いくら鈍感な僕でもさすがにここまで来ると状況を把握する。
 ……だけど、そんな、だって、まさか。
 マリアには好きな男がいる。常々彼女がそれらしきことを口にしてきていた。
 ああ、だけれど。

 思い出した。
 僕は、その男にどうやら似ているらしい。
 そして、名前までもが同じらしい。
 そうか、……マリアはその男と僕を錯覚しているのだ、と思った。

 どう、接していいのかわからない。
 僕は大きく深呼吸すると、マリアの両肩を掴んで言った。
「お前が何を考えているのかよくわからないから、僕は今自分が置かれている現状を素直に正直に言う」
 僕の言葉にようやっとマリアは目を合わせ、頷いた。

「ええ。どんな結果であっても覚悟はしていますから」
「……」

 口にするのをためらう。
 マリアにこんなことを話していいのか……。

 僕はもう一度息を吸い込んでから、言った。
「僕は、……お前のいうように、カインが好きだ」
 途端。
 マリアの瞳が暗く沈む。
 だが僕はそのまま続けた。
「でも、……よくわからないんだ。カインを好きだというのは自分でもはっきりしている。だけど……。たぶん、……今の僕は世間でいうところの非難される対象に当たると思う……」
「……非難?」
 マリアが首を傾げる。

 僕は頷くとさらに続けた。
「……マリアがアズムール王子と部屋で二人で過ごしていたと知った時、僕はずっともやもやとしていた。気分が悪かった。その時感じた感情が……先ほどはわからなかったが、今ならはっきりとわかる。……あれは、嫉妬だ」
「……嫉妬」
 マリアは表情変えないまま、僕の話を聞いていた。

「僕は、……男としては最低なことを考えているのだと思う。……僕は、マリアのことを、……カインと同じように、想っている……んだと、思う」
 自信なく切れ切れに口にする。
「……仲間として?」
 当然ともいえる疑問を口にした彼女に、僕は首を横に振った。
 彼女がわざとはぐらかしているのだとはわかる。
 わかるが。
 決定的なことを僕の口から聞きたいのだろうということもわかるが……。

「仲間として大事に思っているのに男として最低、じゃ意味が通らないだろう」
「なら、聞かせて。どういう意味でそう言っているのか」

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□モドル□


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