マリアが僕の二の腕を握る。
 言ってしまっていいのか。
 いや……すでに言っているも同然だから、同じことなのか。
 しかし。

 僕は迷った末、……マリアを抱きしめた。
「でも……マリアが僕に『あの方』を重ねている限り、僕はこの気持ちをお前に言うことは一生ない」
 抱きしめている為マリアの顔は見えない。
「マリアにとって僕は単なる身代わりにしか過ぎないんだろう……なのに、僕がお前の心を惑わすようなことを言っても行き詰るだけだ。だから、……今夜僕から嗅ぎ取ったことは忘れてくれ、頼む」

 もうマリアはわかっている。
 僕が何をいいたいのかわかっているが、はっきりした答えが聞きたかったはずだ。
 ……マリアを「愛している」と。
 その単語を僕の口から聞きたかったはずだ。

 それを言えばマリアの心から「あの方」を追い出せるかも知れないとは思った。
 でも、そうしたところで僕が二人に不誠実なことをしているという事実は動かない。
 もしも僕が。
 カインだけを伴侶として選んだ場合に、彼女に行き場のない気持ちを与えてしまうことになる。

 ここまで明かしておいて酷い話だ、とは思った。
 だけれどここまでで留めておけばまだ引き返せる。

 マリアは大きく首を横に振った。
「ごめんなさい……。そうね、私は……何か勘違いしていたのかも。貴方はカインが好き。そして私には大切な方がいる。私と貴方はロトの血を引く仲間同士。……それだけのこと、だものね……」
「……」

 それ以上何も言うことが出来ない。
 僕は目を閉じて思案した。

「……マリア。部屋に戻るとアズムール王子が待っているかも知れない。今夜はカインの部屋に行くといい」
「ついていてくれるのでは、なかったの?」
 不安げに僕を見上げてくるが「……ごめん、わかって欲しい」僕は首を振った。
「今夜はこれ以上お前と居ると、……お前を傷つけてしまいそうだから」

 辛そうに彼女の瞳が歪む。
 だが顔を伏せて立ち上がると、マリアは小さくうなずいて部屋を後にした。

 大きく、これ以上ないほどに深く僕はため息をつく。
 もしもマリアだけを愛することが出来れば……「あの方」から彼女を奪い取ってやるのに。
 でも、今の僕にはその資格は、……ない。

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□モドル□


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