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 ようやっとルプガナに辿りついたぼくらは、とりあえず拠点にしようということで宿をとることにした。
 部屋はちょっと奮発して2部屋がドア一枚で繋がってる1部屋。
 ま、いわゆる「スイート」っていうものなんだけど、ここに来るまでにかなりの金品を敵から拾って手に入れてて使い道もあまりなかったのが理由としては大きい。

 1部屋をマリアにあてがうことにしてじゃあぼくらはもう1部屋で、とフロントで決めたところでリークは無言でずかずかと歩き出した。
 何事、と思ってぼくとマリアは慌てて後ろに付いて行こうとして……。
 ここではっとした、リークが何を考えているのかに気づいたのだ。

「まさか」
「え?」
 ぼくの呟きにマリアが反応した。
 でも悪いけど返事してる暇がない。
「させるか!!」

 ぼくは叫んで駈け出した。
 気づいたリークも咄嗟に走り出す。
「な、何……?」
 後には呆然と見つめるマリアが一人。

「勝った!!」
 息を切らしてぼくは部屋の中に片足を思い切り踏み入れる。
 が、そのまま競り合っていたリークが背中にぶつかってきて一緒に倒れ込んでししまった。
 ぼくはリークに潰された格好になる。

「うげっ……、か、勝ったぞ。勝ったのはぼくだからな!」
 息を切らせながらそう言って見上げると、リークはさして興味も無い、と言った顔でぼくの上から退いて部屋の中へと入ってしまった。
 荷物をベッドの脇に置くと帽子を外して荷物の上に置く。
 背負っていた剣と盾を壁に立てかけると、ベッドに座って大きくあくびした。

 あれ、と肩透かしを食らったぼくはとりあえず起き上がると身体の埃を払う。
 荷物をリークのそれの横に下ろしてから彼を見ると、ぼくに視線を合わせないまま呟くようにいった。
「勝負は無しになったんだろう? 何をむきになってるんだ」
 ぼくは思わず、う、と詰まってしまった。
 でも先にむきになってたのはリークの方だったと思うんだけどなあ……。

 腑に落ちない気持ちになりながらも、法衣を脱いで椅子の背にかけた。
 それから椅子に逆向きに座ってじっと彼を見つめる。
 ……気に、してるんだろうか。

 リークはぼくに見られているのを気にせず荷物から本を取り出すとそれに目を通しはじめた。
 本?
 珍しいな、いつもなら宿についた途端に武器の整備をするのに。
「リーク、リーク」

 ぼくが声をかけるとようやっとリークはぼくに目を向けた。
「何の本読んでるの?」
「魔法呪文の書」

 淡々と、さらりと言い放つ彼にぼくは取り付く島の無さを感じながらも更に食いついてみた。
「呪文の書なんて読んで何にするの?」
「……関係ないだろう、お前には」

 その物言いにぼくはむっとした。
 なんだかわざと無愛想にしているようにも思える。
 そういえば砂漠の夜から向こう、ここに来るまでほとんど口を利いていなかった気もした。
 道中は口数が極端に減るのがこいつの常だから気にしてなかったんだけど……こうして改めてつっけんどんな態度を取られて初めて気づく。

 ぼくは立ち上がると歩み寄り、肩を掴んだ。
「キスしてこなかったのはそっちじゃないか」
 ぼくの言葉は彼にとって突然のことだったようで、目を見開いてこちらを見つめてきた。
 ぼくは、続ける。
「キスも出来ないのに抱くだの抱かないだの、前提がおかしいだろ! それでぼくのことが好きかもとかよく言えたもんだよな!」
 いきり立つ僕に対して、リークは見上げて睨み付けてきた。
 益々腹が立ったぼくは。

「先に部屋に着いたほうに主導権がある、って決めたよね」
 そのままリークの顔を両手で掴み、逃げられないようにしてから顔を寄せて口付けた。

 リークが凍りつくのがわかる。
 単純に唇を重ねただけのキスだ。
 それでも初めてだったらしい彼は、衝撃で固まったままだった。
 ぼくはしばらくしてから唇を離すと息を吐いた。

 視線を彼の顔に戻す。
 リークは、眉尻を下げて悲しそうに僕を見ていた。
 どうしてそんな顔になるんだよ……。
 急に罪悪感が芽生えてくる。

「……ごめん」
 ぼくは、それ以上反応のないリークに背を向けるとヘッドギアを外し、自分のベッドに潜り込んだ。
「そっち、こそ」

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□モドル□


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