リークが震える声でいう。
 何事、と思いぼくは思わず起き上がった。
 眉をしかめてリークがぼくを睨んでいる。
「僕がどんな気持ちで過ごしていたか知りもしないで、……ハーゴンを倒さなくてはならない。そんなことに気を取られている余裕なんてない、のに……僕の頭の中をお前のことでいっぱいにさせて、それなのに、……このままじゃまともに戦えない。旅も続けられない。……悪いがここからは当初の予定通り一人で行く。お前はマリア王女を連れてサマルトリアに帰ってくれ」

 一気にまくし立てた相手の言葉にぽくはぽかんと口を開けた。
 リークは更にしゃべり続ける。
「その気もないくせに期待させるようなことばかりいう、キスしようと言い出しておきながら急にやめると言ったりこの宿での約束も突然なかったことにしたり、……そんなヤツに振り回されている状態でまともにハーゴンの軍勢とは戦えないんだ、頼む、……僕の前から姿を消してくれ」
 悲痛な叫びにぼくは眉尻を下げた。
 
 ドツボ、ってやつだ。
 もう勘違いがどうとかいう段階ではすまされない、それが勘違いだったとしてもそうじゃなかったとしても。
 彼の中はぼくへの何がしかの感情で占められている。
 それを何とかできるのはぼくだけで、そしてその「何とか」というのは、……姿を、消す?
 彼の前から?

 ぼくが彼の前から姿を消すということはすなわち、彼もぼくの前から消えるということだ。
 心臓が一度、どくんと跳ねるのがわかった。 

 それが一番いい?
 確かに振り回してばかりいたのは事実だ、反論出来ない。
 相手の姿を見ないようになればお互いそれで苛まれることはなくなる。
 でも、そうしたら……きっと。
 そのまま二度と会うことはなくなる。
 彼が任務に失敗するか、よしんば成功したとして仲違いした状態で別れれば、再会したとしても元の関係に戻ることは二度と無いだろう。

 そんなのは嫌だ、と思った。
 なんでこんなことになっちゃったんだろう。
 そもそもの始まりは何だった?

 マリアが、リークに対して涙を見せたあの時、だ。
 マリアがリークのことを好きだとぼくは誤解して、それで……リークの恋愛観を探った。
 何のために?
 どんな回答を期待して?

 ぼくは、ぼくは、ぼくは、ぼくは、ぼくは。

 頭の中でこれまでのことが駆け巡る。
 
 ぼくはたぶん、きっと。
 初めて会った時から。
 いや。
 初めて会う前から。

 彼の噂を聞いていた時から。

 でもそんな感情、ないことにしてきた。
 同時にありえないことだしそれは「変」なことであると片付けてきた。
 リークがこんなにまっすぐに真剣に気持ちをぶつけてこなければ一生考えることの無いことだったかも知れない。
 何しろぼくは普通に育てられたサマルトリアの王太子であって、女の子にも普通に興味があって。 
 可愛い女の子を見ればときめくし、いいなあと思うし、なのに、なんでよりによって初恋の相手が。

 自分がわからない、ぼくは何者なんだろう。
 今ようやっと自分の感情に気づけたのに……それを相手に告げることの出来ない自分が居る。

 ぼくは精一杯の笑顔を作って、言った。
「ちょっとからかいすぎた、ね。ごめん。……了解した、君の言うとおりここからは一緒に行かない。明日……発つよ」
 それだけいうと再びベッドに潜り背を向けて寝たふりをする。
 リークは何も言わなかった。

 ややあって、部屋の明かりが消えた。
 リークも眠るんだろう。
 マリアはどうしようか、きっとリークに付いて行くっていうのに違いなかった。
 もしそう言ったらマリアのことはリークに任せよう。
 ぼくは……移動の呪法で、ルーラで……一人で帰ろう。
 そう思って眠りについた。

次へ



□モドル□


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