3

 眠れない。
 明日帰らなきゃならない。
 明日、リークと別れなきゃならない。
 胸がざわざわする。今謝れば、許されるかも知れない。
 どうしよう、どうしたらいいんだろう。
 そればかり考え続けて数時間が過ぎた。

 たった一言でいいのに。
 いや、二言必要か。
 たったの二言。
「ごめん」そして「好きだよ」って。
 それだけ言えれば……仲直りできるかも知れないのに。

 ぼくは暗闇の中、身を起こすとすでに寝ているリークの方へ目を向けた。
 寝息は聞こえない……。
 どうせなら。
 これが最後なら、いいよね。

 そう思ってぼくはベッドから降りるとリークのベッドに片膝を乗り上げた。
 ぼくに背を向けていた彼の顔を覗き込むと耳にそっと口付ける。
 途端、びくり、とリークの肩が揺れた。
「……起きてたんだ」
 ぼくが言うとリークは顔だけをこちらに向けた。
 暗くてよく顔は見えないけれど……。

「……今度は何の真似だ」
 少し、怒り気味な声。
 わかってる、怒るのは当たり前だ。
「最後だから、……望むようにしてもいい、って思って」
 リークは黙った。
 黙ってぼくを見つめた。
 ぼくは一度ベッドから降りると布団を剥いでみた。
 リークは身体をこちらに向き直らせてぼくを見ている。

 いつ何が起こっても大丈夫なようにと、彼は宿で眠る時も夜着に着替えずアンダーウェアで寝ているらしく、今日もそうだった。
 もう一度ベッドに膝を乗せて身を乗り出す。
 リークが少し、身体を退くのがわかった。

「僕の望むように、……僕に抱かれる気になったのか?」
 リークの言葉にぼくは首を横に振る。
「違うよ。ぼくの望むように、だよ」

 言うが早いかぼくは身を屈めて相手を引き寄せ口付けた。
 今度はさっきのような簡単なものじゃない、深く。
 以前兵士達とたわいも無く話していたことを思い出して、試してみようと思った。

 舌を差し出して、相手の口内を探る。
 頭を逃がさないように片手は相手の後頭部に回して。
「ん、……ぅ」
 リークは小さな呻き声を上げながらぼくを押しのけようとしていたが、舌の侵入に驚いたのかその手から力を抜いた。

 見様見真似みたいなもんだ、巧く出来てるかわからない。
 でも強引に相手の歯列をなぞり、上顎をねめる。
 舌を捉えて何度も絡める。
 ぬめりのある感触がぼくの頭の奥を痺れさせた。

 思う存分口の中を弄ると……ゆっくりと唇を離す。
 唾液が滴ったのを拭い取って相手の顔を見つめた。
「カイン、何を、……、」
 リークが半ば咳き込みながら抗議の声を上げる。

 ぼくは感極まって、彼を抱きしめた。
「好きだ、……好きだよ、ぼくは、君が、ずっと、好き、だった、……なのに、自分の気持ちを誤魔化して、そんなこと言ってる君は変なんだって君を悪者にして最低な、……君を好きになる資格なんかないんだ、君と一緒に旅を続ける資格なんてないんだ……っ、でも、だけど、好きだよ、好きなんだよぉ……!!」

 途中からぼくは嗚咽を上げながら叫んだ。
 涙が止まらない。
 何も言わないリークに、鼻声になりながらぼくは更に続けた。
「なんで男なんだよ、どっちか女だったら、普通だったのに、君なんかちっとも女の子らしくなんかないのに、なんでこんな気持ち持ったのかわからない、なんで、なんで、ぼくは、……っ」

 リークがやれやれと声を上げたのがわかる。 
 それから、ぼくを優しく抱きしめ返した。
「勘違いじゃないんだ、……。他人と関わるのが嫌いだった僕がお前との旅は嫌じゃなかった。それどころか楽しかった、この気持ちが何なんだろうってずっとわからなくて。そうしたらカインが、男女の関係なく恋愛感情を持つことはありえるというから、きっとそれなんだろうって確信したとたんに気持ちが軽くなった……のと同時に、辛くなった。理論と感情は別物で……お前は僕の想いは理解してくれないかも知れない。もしくは、理解だけはしてくれてもそれと僕の想いを受け入れるのは別だろうと思ったら、苦しくなって……。身体の関係だけでも持てれば変わるのかと思って、……思わせぶりなことばかり言うし、そうかと思って期待したら裏切るし、本当に、嫌いになろうかと思った……」

 リークの語りを大人しく聞きながら、ぼくは抱きしめる腕に力を込める。
 好きだ、好きだ。
 自覚した途端にこんなに想いが溢れるなんて。
 口にした途端にこんなに気持ちが楽になるなんて。

「キスを試してみようって言われたときにためらったのは、その……あまりに嬉しくて動揺、していて……。だから、しないことになった時は我ながら情けないけれど、がっかりしていた……」
 照れくさそうに言うその表情にどきりと胸が鳴る。
 マリアや、他の女の子達の笑顔を見た時とは違う気持ち。
 ……初めて感じる心地よさ。

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□モドル□


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