リークが可愛いと思った。
 ぼくは弱いしヘタレだし、リークよりも弱いしマリアよりも魔法に長けてない。
 でも、出来る限りで彼を守りたいと思った。
 ようやっと涙が収まったぼくは、それでも鼻をすすってからもう一度……今度は軽く、口付けた。

 リークは今度は大人しく受け入れてくれる。
 何度か角度を変えて口づけし直すとぼくらは唇を離して見つめあった。
「……いいん、だろうか」
 視線を伏せてぽつり、彼が呟く。
「どうだろうね。……片思いなら気持ちを押し殺せば終わりだったけど、両想いになっちゃったから……色々大変かも。ぼくもああ言ったけど、男同士の結婚って実際相当難しいと思うし」

 互いに溜息を洩らす。
 それから、顔を見合わせて小さく笑った。
 難しいけれど、きっとなんとかなる。
 なぜかそう感じた。

 窓の外を眺めると空には月、……十六夜月と呼ばれる形だ。

「……、……」
 ぼくには実はもう一つ気になっていたことがあった。
 それを今この状況で訪ねてもいいのか、どうだろう。
 でも、今聞いてすっきりしておきたい気持ちもあった。
 今夜中に全部解決しておけば明日からまた気持ちを切り替えてこれまで通りちゃんと旅が続けられるだろうと思ったのだ。

 口を開こうとしてためらっていたのに気づかれて「どうした?」と声を掛けられる。
「……うん、……。……君は、マリアのことはどう思ってる」
 突然の質問にリークが唖然とするのが手に取るようにわかった。
 どう答えたらいいのか、……というよりもぼくの質問の意図を掴みかねているみたいだ。
 ぼくは更に重ねて尋ねた。

「この前から思ってたんだけど……君、マリアのことも好きなんじゃないのか」
「……え」
 呆気にとられる彼から身体を離すと、頬に手を添えながらぼくは続ける。

「……なんだか、マリアを見る目が……どう言えばいいのかわからないけど、違うんだ。本当に愛しい者を見守っているような……初めて会ったんだろ? なのにどうして、と思って。ムーンブルク王との約束なんて通り越した、不思議な見方をしてる」
「……ああ」
 ぼくの問いにリークは納得したように頷いた。
「……マリアは……母上に似ているんだ。顔つきだけじゃない、仕草も声も……。母上があの年頃だったらきっとまったく同じ姿だったろう、と思えるほどに。まるで生き映しで。それがどうしてなのかは僕にもわからない。母上はムーンブルクの諸侯の出身だったらしいけれど、向こうの王家と血縁があったのかも知れないな」
「君の母様に似ていたから面影を重ねた?」
 問いながら頬にあてていた手を下ろすと再び頷かれる。

「もう、……失いたくない。だから国へ送って保護されて欲しかった。だけれど本人は付いてくることを望んでいる。なら、僕の手で……絶対に守ってやらなければ、と誓ったんだ。それがお前のいうところの恋愛に当たる気持ちなのかどうかはわからない。お前に対する感情とはベクトルが違うような気がするし……」
「マリアも……君を誰かに重ねているね」

 マリアが嘆いた時に叫んだ「あの方」。
 問うのは野暮だから、そのことについてはぼくもリークも尋ねてないけど、……たぶんマリアの好きな人で。
 それで、その人は今、マリアが会うことが出来る場所には居ないんだろうということだけは手に取るようにわかった。
 ひょっとして件のハーゴンの強襲……「ムーンブルクの悲劇」でその人も……。

 もし、そうだとしたらマリアがリークに恋心を抱く条件は揃いすぎている。
 そして、リークが彼女に惹かれる条件も整いすぎている。
 それこそぼくなんかを相手にするよりもずっと。
 二人がもしも恋をしたら、もしもお互いに惹かれあったら、ぼくはその時……どうすればいいんだろう。

「重ねているだけだろう、……本人の居ないところでそんなことを論じても仕方がない。もう寝よう、明日も早いから」
 リークに一度頭を撫でられると、ぼくは撫でる手の暖かさに安堵しながら自分のベッドへ戻った。

 窓の外には十六夜月が輝いていた。

END



□モドル□


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