竜王の曾孫……分身なのだから、竜王とそのまま呼んでいる……は、嵐で船が出せなくなった僕らに嵐が治まるまで城に滞在しても良いと申し出てきた。
 僕としてはあまり受け入れたくはなかったのだが、背に腹は変えられない。

 入り江に船を停泊させた僕達は、竜王にそれぞれの寝室を借りることにした。
 一人一部屋、竜王しか住んでいないだけあって空いている部屋はたくさんあるようだった。
 ベッドは……あまりかび臭さを感じない。
 訪れる客も居ないだろうに、この整備のしように僕は不思議な気持ちになった。
 とりあえず、ベッドに横になる。

 船の簡易ベッドよりはるかに柔らかいそれは、僕を眠りに誘おうとうとうととさせた。
 竜王の、曾孫。
 竜神族の一人。
 竜神、ということは神なんだろう……。
 それが僕らと対等に話しているのがどういうことなのか、いまいち掴めない……。

 そんなことを考えながらいつしか眠りに落ちていった。





 どのくらい眠っただろう……。
 ふいに目が覚めて僕は身を起こした。
 小用を足したくなって……部屋を出る。
 便所はどこだろうか、困った、聞いていない。
 仕方なく廊下をうろうろしていると
「どうした、ローレシア」
 後ろから声を掛けられた。

 振り向くとやはり竜王。
「……別に」
 ここで意地を張る意味はないのに、なぜかそんな返答をしてしまう。
「なら寝ろ。嵐が治まったらすぐに出るのだろう?」
 そんなことはわかっている、……僕はそれに返答するのが煩わしくなって無視して廊下を進みはじめた。
 すると竜王が歩みを早めて僕の隣に並ぶ。
「なるほど、便所を探しているか」
「……」

 人間が、他人に知られたり見られたりすると恥ずかしい行為が三つあると思う。
 一つは食事。
 食事程度は軽いものだ、見られてもあまり大きな影響はないが……やはり口元や食べる動作を見られると恥かしさが伴う。
 腹が鳴ったりする音を聞かれるのもかなり恥かしいことだ。
 そして、性的な行為。
 これは見られれば死にたくなるほどの恥かしさを感じるだろう。
 そして、それとほぼ同等ぐらいの恥辱を感じるのが用便に関することだ。

 僕はそれをまさかのこいつに悟られたことに激しい恥辱を感じた。
 よりによって、というやつだ。
 自分から尋ねたのならまだ良かったのに、相手に悟られるのがこれほどまでに恥かしいとは思いもしなかった。
 異常なほどに腹が立ち、そのまま無視してすたすたと前に進む。
 すると後ろから竜王が
「便所はお前が今通り過ぎたその扉だ」
 と声を掛けてきた。

「……」
 黙ったまま、通り過ぎた道を戻って扉を開き、中に入る。
 ややあって出てきた僕を竜王がくつくつと笑いながら待っていた。
 ああ、腹が立つ。
 本当に腹が立つ。
 そして恥かしい。
 こいつはなんなのだろう。
 僕に屈辱を与えるための存在ではないか、とすら思う。

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□モドル□


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