「用は足したのだろう。寝るか?」
 竜王の問いに僕は黙って頷いた。
 あまり、会話は交わしたくない。
 しかし、竜王は言った。
「……まだ寝ることもなかろう。少しワシの余興に付き合え」

 意味がわからない。
 さっきは寝ろと言っただろう。
 僕は呆れてため息を洩らした。
「明日朝一番に発つつもりだからな。寝る」
 すると、竜王が歩み寄ってきた。
 僕は思わずびくりと構えて相手の様子を見る。

「……警戒するのは、アレフの血なのだろうな」
 ふいに出た曾爺さんの名前。
 僕は呆気に取られて相手の顔を見た。
「サマルトリアとムーンブルクは、お前ほどには警戒していないだろう。それはローラの穏やかな血によるものだと思う」
「曾爺さんの血というなら曾婆さんの血だってあるじゃないか」
 僕がそう抗議すると、竜王は首を横に振った。

「どちらの血がより優勢か、ということよ。まるでお前はアレフの生まれ変わりのように……ワシを強く睨んでくる。ワシとしても曾祖父の記憶の中でしかないが……倒さねばならぬ悪として、よくよくあやつは曾祖父をきつく見つめていたよ」
 少しだけ、遠い目をする竜王。
 しかし何を意図しているのかわからない、僕はやれやれ、と息を吐く。
「過去の感傷に浸りたいだけなら僕が付き合う必要はないだろう?」

 踵を返して寝室へ戻ろうとすると。
 竜王が、僕の肩を掴んできた。
「過去の感傷だからこそ、お前が居ることが重要なのだ」
「……僕に曾爺さんの代理をしろ、と?」

 僕の問いに竜王は頷いた。
 それを見て取り僕はもう一度背を向ける。
「馬鹿馬鹿しい。僕は曾爺さんのことは確かに尊敬している。けれどそれとこれとは別だ、代理になるつもりはない。アンタこそもう寝ればいいだろう」
「……ここで、何年一人で過ごしてきたと思う」

 急に、さきほどまでより弱弱しい口調で言ってきた彼に思わず振り返った。
 いつも僕に相対するよりも弱く感じたその態度に、思わず好奇心を持つ。
 僕の肩から手を下ろすと竜王は顎で僕が今進もうとしていた方向の、逆を指し示した。
 それからおもむろに歩き出す。
 ついて来い、ということか。

 無視をして部屋に戻ろうか迷っていると
「早く来い、ローレシア」
 ……なぜ命令口調で呼ばれなければならないんだ。
「話に付き合ってほしいのはお前の方なんだろう? それなりの態度という物が見られないのなら僕は今すぐ部屋に戻る」
 そう棘を込めて言ってやった。
 すると。
「ここが誰の城だと思っている? そこまで頑なならば嵐で揺れている船の中で寝れば良かろう。この城で強制的に寝ろ、とは言っておらん」

 まったく憎々しい奴だ。
「じゃあそうしてやろうじゃないか。カインとマリアには船で寝ていると告げておいてくれ。それじゃ」
 と、船のある方に戻ろうと歩みを進めた、が、ここで気づいた。
 出口は部屋と逆方向。
 つまり竜王が来いと言っている方向に進まねばならない。
 何となく謀られた気がして、額に「む」の字を浮かべながら竜王の方に歩く。
「……1時間、だけなら」
 竜王はにやりと口の端を釣り上げた。

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□モドル□


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