通された部屋には壁一面にもなる絵が一枚、飾られていた。
 辺りの燭台に竜王が火を灯していく。
 明るくなった部屋ではっきりとその絵を目にすると、それは一人の女性の肖像画だった。
「これは……曾婆さん?」
 ぽかん、と見上げてしまう。

 若き日の……姫と呼ばれた時代の曾婆さん、ローラがそこには描かれていた。
「曾祖父が彼女を攫ってから描いた物よ。どうだ、なかなか良く出来ているだろう」
 確かに。
 それは生き生きとしていた、まるで本物がそこにいるかのような素晴らしい絵画だった。
 竜に絵心があるのだな、などと変な方向に感心してしまう。
「でもなぜこれを僕に見せる」
「何か、思うところはないか?」

 思うところ?
 言われてしげしげと眺めるが、よくわからない。
 絶世の美女と謳われた僕らの曾婆さん。
 マリアに、似ていると思う。
 母とマリアほどの生き映し具合ではないが、血の濃さは感じさせられた。
 それから、カインにも似ていると思った。

 僕とは似ているのだろうか。
 それはよくわからない。

「……特に何もない。ローレシア城でも良く見ていた肖像画と特に変わりはないが」
 すると竜王は首を軽く振った。
「そこが問題だとは思わぬか」
「は?」

 問われてもう一度肖像画を見る。
 ……。
 ん? と、疑問符が頭に浮かんだ。

「これはいつ描かれた物だ? 曾婆さんが大人しくモデルになっているのはどういうことだ?」
 竜王はようやく気づいたか、と洩らして絵に歩みよる。
 竜王が傍に立つと、なお一層その絵の大きさがよくわかった。
「攫ってからまだ数日のうち、だ。……曾祖父がローラの"正体"に気づいていなかった頃。まだ洞窟に閉じ込めず、城で共に過ごしていた頃だ」
「共に……城で……」

 こいつから宝物庫で聞いた話がどこまで本当なのかはわからないのだが、なるほど……と思った。
 それからもう一度肖像画を見る。
 優しい笑顔で佇む彼女。
 竜王に攫われたことに怯えている様子など、微塵も感じられない。

「……竜王は……お前の曾爺さんは、ローラ姫を本気で愛していたのかも知れないな。愛情に満ちた絵だ。これを描いたのがアレフガルドを脅かしていた者だとはとても思えない」
 僕の言葉に竜王は満足げに頷いた。
「アレフが現れなければ。そして、ローラがローラのままでいれば、ひょっとして二人は結婚していたと思わないか」
「それは無理だろう」

 竜王の感傷的な言葉を思わず即座に否定してしまう。
 僕は間髪入れずに続けた。
「ローラ姫がただの人間ならば竜神の一族である竜王とは結ばれることは出来ない。そう言ったのはお前だ」
「……」

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□モドル□


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