珍しく、竜王が黙りこむ。
 何となく言い負かした気になった僕は少しだけ調子づいて更に言った。
「最もローラ姫が人間ではない、お前のいった"正体"ではない別の者だったとしても……無理だったと思うけれどな。アレフが現れればきっとそちらに惹かれたと思う」
「なぜそう言いきれる」

 竜王は言葉に少しだけ苛立ちを混じらせて、しかし冷静に言う。
 僕は頷く。
「ローラ姫が……曾婆さんが曾爺さんを選んだのは、きっと何かの特別な力が働いていたと思うから。それこそ運命の赤い何とやら、といったものかも知れない。ひょっとしてアレフ以外の者が洞窟から救い出しても曾婆さんは惹かれなかったと思う」
「ふむ……」
 僕の弁に竜王は顎に手を当てて考え込む。

 それから、手を外すと僕を指してきた。
「お前は、どうだ」
「何が」
 即座に返すと竜王はにやりと笑った。
「ムーンブルクを…ローズマリーをどう考えている? 自分の伴侶という対象として」
「……」

 なぜ急にこんなことを訊かれているのかわけがわからない……。
 僕は大きくため息を一つ、洩らした。
「別に。マリアのことは何とも思っていない。それに今の話とどう関係ある」
 呆れてそう言うと、竜王は「なるほどな」と頷いた。
「ではワシがローズマリーを貰っても構わんな?」
「……は?」

 思わず変な声を出してしまうと、竜王は続けた。
「ローズマリーの纏う雰囲気はローラの曾孫だけあるな、彼女にとても似ておる。曾祖父の代で叶わなかった恋を曾孫の代で叶えるのも良かろうとは思わんか?」
 僕は、あまりの発想に一瞬意識が飛びそうになった。
「アンタが? マリアを? ……娶る気なのか?」
 竜王は頷く。
 どうにも整理しきれない、なぜ突然そんな話になっているのか。
「……マリアのことを愛しているのか?」

 ごくりと、息を飲みながら尋ねてみた。
 そう問われて竜王は「さて」と視線を逸らす。
「あれはまだ年若いがいい女だ。もう数年すればワシ好みの最高の女に熟するだろう」
 はあ、と生返事をしてから考える。

 こいつは僕を曾爺さんの代理にしているのと同じように、マリアを曾婆さんの代理にしているのだろうか、と思った。
 マリアが愛しているという「あの方」の問題を訊けばこいつはどう思うのだろう。
 代理にしている程度なら、その話を聞けば諦めるかも知れない。

 ……いや、諦めさせてどうする気なんだ僕は。
 実りがないから諦めろと、言ったところでどうなるものでもない。
 マリアの愛した「あのお方」は恐らくもうこの世にいないのだろう。
 とすれば、あの小憎らしいアズムールに渡すよりはこいつの方が幾分マシのような気もしてくる。
 いや、だめだ。どちらもだめだ。
 こんな奴らにマリアはやれない。
 かろうじて認められる男がいるとすれば……カインぐらいだ。

次へ



□モドル□


Presented by 小説X ver1.1,