そこまで考えてから、自分がまるでマリアの父か兄かのような心境になっているのに気が付いた。
 これでは認めた男でないと結婚させられない、などという頑固親父だ。
「……残念ながらマリアはただの人間だ。"神様"とは釣り合いが取れないと思うがな」
 視線を逸らしてそう告げると、竜王は少しだけ、笑んだ。
「さて。それはどうかな」
「……」

 ここに居ながら世界のほぼすべてを見透かしているという竜神の一族、竜王だとのことだが……どうもこいつの言い回しはことごとくが意味深長すぎて図りづらい。
 最後になると会話が面倒になって来る。
「まあ、マリアの心というものがあるだろう。ローラ姫は知らないが、マリアは他に好きな男がいるらしい。諦めた方がいいと思うが」
「それがお前、か?」

 こういう時ばかりずばりと切りこんでくる相手にどう答えたものか考えあぐねる。
 こいつは何が言いたいんだ。何がしたいのだろう。
「僕じゃない。……いい加減にしろ、そんな下らない話ばかりならもう寝る」
 すると竜王は、ははは、と笑い声を洩らした。
「不憫だな」
「余計なお世話だ」
 相手の軽口をそう一蹴する。
 いや、した、つもりだったが。

「不憫なのはお前ではない。ムーンブルクよ」
 竜王に視線を戻す。
 竜王は杖でこつこつ、と床を叩いた。
「時に、ローレシア。お前は忘れてはいまいか?」
「何を」

 ぶっきらぼうに答えると、竜王が僕の傍に歩み寄って来た。
 なんとなくたじろいで後ずさるも、すぐに背中が壁に当たってしまう。
 竜王は顔を近づけてから、僕の顎を手に取り視線を合わせる為にか、持ち上げた。
「お前もローラの血を引いていることを」

 …………。
 何となくだが、嫌な予感が、する。
「……それが何か」
「神の一族はな。伴侶を取らずとも子孫が残せる。これがどういう意味かわかるか」
「知らない。手を離せ」

 僕は鬱陶しくなって奴の手を払いのけた。
 つもりだったが、思ったよりもしっかりと捉えられていてその手は動かなかった。
「……伴侶を取る時は男でも女でも、相手は構わんということだ。ワシも今は便宜上男の姿を取っているだけでな。もし伴侶に男を選べば女に変化できる」

 ……その、言葉に。
 全身から血の気が引くのを感じて、僕は身をよじって慌てて壁と竜王の間から抜け出した。
「気色の悪いことを言うな!」
 ぜえぜえ、と呼吸を荒くすると、竜王はさもおかしそうに高らかに笑った。

「やはりお前はからかいがいがあるな、ローレシア」
「……、……」
 二の句が告げない。
 何なんだ、こいつは結局何がしたいんだ。

 竜王から距離を取ると、僕は一気に扉の方へ駆けだした。
「どこへ行く気だ?」
「寝室に戻るに決まっているだろう! 貴様の与太話にこれ以上付き合っていられるか!」
 そう叫んで一気に廊下を駆け抜ける。
 後には、竜王が一人残されていた。

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□モドル□


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