「ごめんなさいね」
 棚の陰から、私は姿を現した。
 そこにはまだおかしくて笑いが止まないらしい、竜王。
「……びっくりしたわ。ここに隠れて待っていろ、だなんていうから何を企んでいたのかと思ったら」

 眠れなくて城内を散歩していた時に竜王に声を掛けられて、私はこの部屋に案内された。
 それから廊下に誰かがいる気配を感じた彼は灯りを消して私を置き去りに出て行き……戻って来ると、リークを連れていた。
「ローレシアは……あれは、お前に気があるのだな。やはり」
 そう言われて思わず首を横に振る。
「違うと思う。仲間として、自分の知っている相手でないと私の相手として認められないだとか……そういう気持ちよ。きっと」
「不憫なのはお前だけではなかったか」

 竜王は溜息を洩らして部屋の中を歩き回りはじめた。
 私を中心に円を描くように。
「お前達はそういう頑固なところがよくよく似ているな。そこがローラではない、アレフの血、か」
「そう、なのかしらね。……私、正直なところ自分の気持ちもリークの気持ちもよくわからないの」

 頬に手を当てて考え込む仕草を取ってみる。
 それから、続けた。
「私……リークのこと、……愛しているのかしら。でも、……きっとたぶんおそらく……憧れの方を重ねているだけ、だろうから。それにリークには……他に好きな人がいるのだし」
「自分の気持ちだから見えぬこともあろう」
 竜王は頷くと、私の傍に歩み寄って来た。
 それから両腕を広げたかと思うと……、その腕に抱きすくめられる。

 驚いたけれど、嫌な感じはしなかった。
 大人しく抱かれていると竜王が口を開いた。
「お前がその気ならばワシはお前のことをいつでも受け止めてやろうぞ」
「……ありがとう」

 目を、閉じてみる。
 暖かい。
 なぜあの方でもない相手に抱き締められて安心するのかはわからないけれど、……きっと私は彼に兄のようなものを見ているのかも知れない、と思った。
 私の中に流れるローラ姫の血が、彼にそういった感情を持っていたのかも知れない。
 情の対象にはなるけれど愛の対象にはならない。
 そんな関係なのだと、自分で思う。
「……ところで、ローレシアにお前以外の恋慕の相手がいるというのは初耳だな」
「ええと……」
 少しだけ、口籠ってしまう。
 なんて答えればいいのか。

 私は竜王から身体を離して、相手を見つめた。
 少しだけ考えてから。
「彼に流れるアレフの血が、ローラの血を求めていた。とでも言えばいいのかしら」
「……お前がワシに謎かけか。なるほど面白い」
 そういうと竜王は腕組みして見せた。
「サマルトリアに居る妹、とかいう小娘か」
「残念でした、はずれ」

 私はいたずらに笑って見せた。
 すると竜王はわからない、と首を傾げる。
「ならばもっと別の親族か」
「そうね、……ねえ、神の一族は伴侶を選ぶ時、相手の性別を選ばないのでしょう?」

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□モドル□


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