翌朝。
 ゆうべの嵐が嘘のように快晴だった。
 僕は錨を上げながら、見送りに出てきている竜王を見下ろす。
 あれがただのからかいだったのだと、あの後なぜか起きていたマリアになぜか諭されて、ようやく竜王に対する意識は落ち着いたが。
 なぜマリアはあの男を気に入っているのだろう、いまだによくわからない。

"曾祖父の代で叶わなかった恋を曾孫の代で叶えるのも良かろうとは思わんか?"

 竜王の言葉が頭の中に蘇る。
 昨夜は諦めろ……などといったが、考えてみればマリアがどう考えているかは確かめていないのだ。
 僕が自分で考えたようにマリアの憧れの君を彼女が諦める気があるのなら、あれだけ仲のいい竜王は対象に入っているのかも知れない。
 だが、そう考えるたびに胸がもやもやとする。
 ラダトームでの一件の時のような気分の悪さが胸を焼く。

「そんじゃ出発しよう! 面舵いっぱーい!」
 舵を取っているカインが元気良く叫んだ。
 ふと見ると、マリアは甲板から竜王に向けて手を振っている。
 隣に並んで一緒に見下ろしてみると竜王がなんだかしまりの無い顔で手を振り返していた。

 馬鹿馬鹿しい。
 結局なんだったんだ、昨夜のあれは。
 睡眠時間は削られる、それで気色の悪い思いやら気分の悪い思いやらさせられてまったく無駄な時間を過ごした。
 僕が不機嫌な顔をしているのに気づいた奴がこちらに視線を向ける。
 それから、僕に向けて手を振ってくる。

 ぷい、とそっぽを向いてみせると竜王はおかしそうに笑っていた。
 なぜ出航の際まで小馬鹿にされなくてはならないんだ……ああ、イライラする……。
 ……だが。
 なぜだか、昨夜までと比べて苦手意識は薄れている気がする。
 奴の人間らしい一面を垣間見て親近感を覚えたのかも知れない。

 竜で神、という相手に人間らしい一面も何もないのだが……。
 僕の中のアレフ、が竜王を……許したのかも、知れなかった。

 空は快晴、海は穏やかだ。
 僕達は船を、次の街へ向けて思い切り漕ぎ出した。

END



□モドル□


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