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 砂漠の途中のオアシスに差し掛かったところでちょうど夕暮れを迎え、ぼくらはそこでキャンプを張ることにした。
 砂漠は昼と夜の気温差が極端で、昼間は暑い、やってられないと思っていたのに日が落ちると突然冷え込んできた。
 発火剤を用意して、枯れた椰子の葉を集めるとぼくの魔法で火をつけて焚き火を起こす。
 三人でなんとなく火を囲んで見つめた。

 誰も、何も言わない。
 周りからも何も聞こえない。
 静かな夜だ。
 あまりにも誰も何も言わないので、静かさに耐えられなくなったぼくは口火を切ることにした。

「……ねえ、二人とも敬語やめたら? でもって愛称で呼ぼうよ」
 それを聞いて二人は顔を見合わせた。
 少し困った顔をしている。
「……何かまずい?」
 尋ねると、マリアは視線を落としながら言った。

「私は……レイカーリス王子がそれでいいのなら、構わないけれど……」
 続いてリークが口を開く。
「僕も、ローズマリー王女が構わないなら」

 なんだろうこの二人、お互い遠慮しあってたのかな。
 うーむ、とぼくは唸ってもう一度二人を見た。
「本当はそうしたいのにきっかけがなかったんだろ二人とも」
 どうやら図星だったようで。
 二人が肩をぴくりと揺らす。
 それから、照れくさそうに笑った。
「……よろしくお願いします。リーク」
「こちらこそよろしく、マリア」

 そういって互いに頭を下げる。
 ぼくは二人のやり取りがなんだか可愛くてちょっと笑ってしまった。
「よかった、これでますますぼくらの絆は深まったね! ……たぶん」
「たぶんだとかいうな」

 リークのつっこみにまあまあと手を振るとぼくは干し肉と水を取り出して二人に配った。
「食べたら寝ようか」
「そうだな」

 そうして。
 また見張りは二人だけですることにしてマリアを寝かせる。
 マリアは少し、ごねた。
 二人にばかり負担させるわけにはいかないと。
 でも、ぼくらは知っていた。
 ただでさえ深窓の令嬢だった彼女が、昨日の塔登頂でかなり疲労していたことも、今日の砂漠横断で足の豆がつぶれてしまっていただろうことも。
 だから彼女を出来るだけ休ませてやらなければならなかった。
 休ませるといっても何日も休ませることは出来ないわけで、明日になって陽が昇ればまた歩かせなくてはならない。
 マリアは寝る前に足に薬草を巻いてはいたけれど、それでどの程度回復するんだろう……。

 ぼくは寝ているマリアを心配で見てたけど、ふとリークに目をやると彼もまたマリアを見ていた。
「……彼女が国へ行きたくないと言っている以上、出来るだけ早く旅に慣れてくれることを祈っている」
 リークがぽつりと呟く。
 ぼくも頷いた。
 彼女の歩調に合わせているおかげで速度は格段に落ちている。
 ただ、戦いのときの戦力は上がったといえる。
 彼女が戦力になりうる魔力を持っている分だけやっぱり二人より三人のほうが強い。

 そんなことを思い起こしていると、リークがぼくを見つめているのに気づいた。
 結局彼の中で昨夜のことはどう決着がついたんだろう。
 気になる、けど聞いちゃいけない。
 せっかく忘れようとしてるのに思い起こさせるなんて。
 そんなことを考えていたのでぼくがずっと黙っていたのに痺れを切らしたのか、リークから声を掛けてきた。

「……カイン。真面目に聞いてくれないか」
 来た。

 ぼくは余計なことは考えないようにして「うん」とだけ頷く。
 リークはぽつりぽつりと話し始めた。
「カインが全部冗談で話していたのも知っている。……可能性の話も、単なる可能性の話だけで、カイン自身にその気がないのも知っている。だけれど……理由はわからないけれどこの話が出始めてから僕の気持ちが急速に『そうなのかもしれない』という方向に動き始めた。まるで歯車がピッタリ合ったかのように、……驚いているんだ。もしそうなのだとしたら、僕はいつからお前のことを、って」
「人を好きになるのに性別は関係ない……。その持論はぼくは曲げるつもりはないよ」

 リークの言葉をはぐらかすようにぼくは言った。
「そして、……ぼくは幸か不幸か今、好きな人が居ない。君の事を好きになる可能性も否定しない。だけど……今はまだ、わからないんだ。君の気持ちはたぶん心を許せる友達が出来たことによる勘違いなんじゃないかと思う」
「勘違い……か」
 大きく息を漏らすとリークはまっすぐぼくを見た。
 そして。
 とんでもないことを、言った。

「なら勘違いかどうか確認したいから、抱かせて欲しい」
 はい。

 はい?
「抱? ………」
 ぼくが目を丸くしていると、リークは立ち上がってぼくの隣に座った。
 ま、待った、ここですんの!?
 仮にそれをぼくが許可したとして、ここは砂漠で、そして目の前でマリアが寝てますよ!?

「ま、待った、ストップ!」
 ぼくは両手を顔の前に出した。
 それから物凄い勢いで彼の両肩をがしっと掴む。
 僕の形相にリークは驚いて見つめてきた。

 ああ、そんな子犬みたいなつぶらな瞳しないで……!

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□モドル□


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