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「あああ、あの、わかった! その勘違いというのを解くために一度だけ引き受けよう! ただし! ……ぼくが上だ」
「え」

 リークはものすごく嫌そうな顔をした。
 そりゃそうだ、自分が上になるつもりでいたんだろうから。
 だからといってぼくだって男だ引き下がるわけにはいかない。
 掘られるなら掘るほうがマシだ! ……たぶん!
「そ、それは嫌だ。僕は男だから」
「ぼくだって男だっつーの!」

 思わずぜいぜいと息を切らしてしまう。
 ぼくは息を整えると、こう提案した。
「こうしよう。ドラゴンの角を渡ったら確かすぐにルプガナに着けるはずだろ、そこの宿屋。決戦の場はそこってことで……。で、チェックインしたら一斉にスタート、先に部屋に飛び込んだほうが主導権を握る。これでどう?」
 ぼくの提案にリークはやや悩んだ顔をする。
 それから、「いいだろう。受けて立ってやる」と頷いた。

 ぼくはそれが成立してからはたと考える。
 いいのか……?
 女の子すら抱いたことないのに、増してや男?
 抱くのも抱かれるのも果たして出来るのか……?

 少し不安になってリークから身体を離すと、彼は彼で不安そうな顔をしている。
 ど、どうしろっていうんだぼくに。
 なんでこんなことで悩まなきゃならないんだ。
 これが女の子だったらぼくはどうしていただろう?

 ……女の子だったとしても。
 同じような会話が繰り広げられていたに違いなかった。
 違いは相手がぼくの上になる気満々になってる点だけだ。
 なんだそれ、とぼくは思った。
 リークを女の子と同等の扱いにしてるなんてどうかしてる。

「…………〜〜なら、今、試してみてもいいよ」
「え?」

 ぼくが冒頭を濁していったのが聞こえなかったリークは問い返してきた。
「試すって何を」
「だ、から、その」

 ぼくは視線を逸らしながらまたもごにょごにょと口ごもり。
 それからどうにか、はっきりと口にした。
「キスぐらいなら、今すぐにでも試せる」
「……」

 ぼくの言葉にリークは黙った。
 するべきか迷ってるんだろう。
 キス程度も出来ないならその気持ちはやっぱり勘違いだったってことだ、ぼくにしてはいいアイディアを出したと思って内心得意になった。

 リークはまだ迷っている。
 その迷い方がまた結構長い上に、……口元に手を当てて地面に視線を落としてから次に空を見て、焚き火を見て椰子の木を見てオアシスを見てとせわしない。
 次に腕組みをしてうんうん唸る。
 それから自分の目元を片手で隠して考え込む。

 ぼくは段々イライラしてきた。
 しないならしない、するならするではっきりしろ!
 ……そら見ろ、やっぱり出来ないんじゃないか。
 抱く抱かない以前の問題じゃないか。

 何故だかたまらなく腹が立ってきた。
 勝手すぎる、……ぼくにこれだけ葛藤させておいて勘違いでした、とか。
 男相手にこれだけ悶々としてる自分だって信じられないのに。

 そこまで考えてぼくは大きく息を吐き、一旦冷静になろうと思った。
 ……ぼくは、リークにどうして欲しいんだ? どうさせたいんだ?
 彼がムーンペタで疲れた、もう考えないと言った時もやたら癪に障って、わざとまた乗って来るように仕掛けたのは……ぼくだ。

 ぼくはひょっとして……追われるのを楽しんでる?
 受け入れてやる気もないのに?
 何を、……考えてるんだろう。
 自分の考え方にぞっとしてぼくは首を横に振った。

「ほらやっぱり出来ないだろ? やめよう。ルプガナの決戦も、ナシ」
 まだ考え込んでいたリークに向けてすっぱりそういうと、ぼくは頭から毛布をかぶって寝た振りをすることに決めた。
 リークがどういう顔をしていたかは見えなかった。




 翌朝、ぼくを起こしたのはマリアだった。
 すっかり陽が昇っている。
 交代はしていないから……リークはあのまま起きていたんだろうか。
 そう思って周囲に視線を走らせるとリークは焚き火を片付けているところだった。
 ぼくと視線が合うと「おはよう」とだけいつものように無愛想に言ってくる。

 まるでゆうべのことは夢だったのかのように、何もなかったような態度だった。
 ぼくらは口数も少なく朝の食事を終えると、さっそくドラゴンの角へ向けて出発した。
 あの塔を越えればルプガナだ……。

END



□モドル□


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